Column コラム

Vol.10【社員を守るために必要な防災・危機管理とは】

今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。

1 社員を守るために必要な防災・危機管理とは
・各個人が日頃から意識できているか
・トラプルが発生した初日のうちに対応を行えるか
・大きな事故を教訓にセキュリティ対策が講じられているか

2 あの事件をプロはこう見る
・京都アニメーション放火殺人事件
・雑居ビルでの火災(福岡県) ・放火(大阪府)

3 防災・防犯への対策で必要な視点とは
・【防災】BCPマニュアルはイメージの共通化が重要
・【防犯】想定外を考え、対策を練っていく
・安全を確保するための防災検討は半永久的に継続を

社内外での危機管理対策へのご参考としてご活用くださいますと幸いに存じます。


1 社員を守るために必要な防災・危機管理とは
予測不可能なこの時代、日頃から防災や防犯に対して危機管理や対策を講じているかどうかが、
被害を最小限に食い止めるための重要な要素になります。
今回は、防災に関するコンサルティングや防災商品の販売・企画、また消防設備や建設設備の点検・設置・改修などの業務を展開している、株式会社かんがえる防災の代表取締役社長高木敏行氏をお迎えし、オフィスにおける防災、危機管理対策や従業員を守る対策の在り方について弊社の西岡顧問と対談いただきました。

社員を守るために必要な防災・危機管理のポイントは以下の3つです。

・各個人が日頃から意識できているか
・トラブルが発生した初日のうちに対応を行えるか
・大きな事故を教訓にセキュリティ対策が講じられているか

01. 各個人が日頃から意識できているか
不測の事態に備えるためには、従業員一人ひとりが日頃から防災や危機管理に対する意識をしていることが大切です。
例えば、定期的に行っている避難訓練や研修を毎回、同じ内容にするのではなく、変化をさせていくことでマンネリ化を防ぎ参加意識を高めていくなどの工夫をする事で、各人が自分事として捉えられる環境づくりを目指したいところです。

避難訓練や研修では「過去の事例から非常事態での対応方法を学べる機会を設ける」「自分自身の会社にはどのような危険や問題が発生しそうなのかを洗い出してみる」といった視点で取り組むことで、知識を得るだけにとどまらず実践すべき場面できちんと動けることにつながります。

各個人がすぐに実践できる対策として、非常口につながるオフィスの廊下などにはものを置かないこと、社内を常日頃から整理整頓された状態に保つことから取り組んでみてください。
ものを置きすぎると避難の妨げになるため消防法に違反してしまうことになるほかに、整理整頓された状況を保つことで、結果として不審物を見つけやすくなるなど防犯対策の強化にもつながります。

02. トラブルが発生した初日のうちに対応を行えるか
万が一の事態が発生した際に、パニックを起こしたり、恐怖で体が動かないということになると、ますます被害が拡大する可能性があります。
トラブルを拡大させないためにも「初日のうちに」行動をすることが重要です。

地震や台風、洪水などの自然災害は複合災害に発展するケースが多々あります。
連絡体制を整備し、 テレワークや休暇中など遠隔にいる従業員に対する安否確認の方法を決めておきましょう。
また、対応マニュアルやBCP(事業継続計画)を作成し、安否確認班を事前に編制したり「従業員→リーダー(係長)→課長→部長→取締役→社長」といった情報伝達系路を定めるなどの準備をしておくことで、トラブル発生の初日から迅速に対応ができるようになります。

初動対応を迅速に実施するためには事前の備えも重要です。例えば火災対応を例に考えてみてください。
消火器の種類や保管場所は適切ですか?社内の配線状況を理解していますか?
社長室など一室だけでも防火室として使える仕様にしておけば、そこを起点に避難をすることができます。
昇降機や縄梯子なども備えて、避難に支障が無いように管理をしておきましょう。
事前の備えを怠った場合、雇用主は安全配感義務違反を問われる可能性もあります。

03. 大きな事故を教訓にセキュリティ対策が講じられているか
過去に起きた大きな事故・事件からは学べることが数多くあります。過去の教訓やプロの視点を取り入れながら、自社に必要な防災·防犯への危機管理対策を立てていくことが、被害を生まない・最小限に食い止めるために重要です。

例えば、オフィスに出入口が1か所しかない雑居ピルでの火災の事例があった場合「建物の構造を知っているか、その上で逃げ方を検討出来ているか」「絨毯やソファーなど備え付けのものが燃えやすい素材ではないか、燃えた場合に有毒ガスを発生させることはないか」などを考えてみる機会にしてください。

また、放火などの事例だと「事件発生時、社内に監視の目がなかった(例えば、社長室まで行き着くのに受付やID認証を備えておらず制限がかかっていなかった)」といったセキュリティ面での対策が不足していたことが、事件発生の要因となったりします。防災という言葉にこだわり過ぎず、防犯の観点からも必要な対策をしましょう。

防災ができている企業とできていない企業でどう差がつくのか
防災・防犯に対する対策や意識改革ができている企業とそうでない企業にはどのような差があるのでしょうか。
比較して言えることは、充分な防犯・防災対策ができている企業は「信頼できる会社」と評価されることです。

例えば、株主総会を開催するにあたって、来場者に緊急時の避難経路や消火設備をきちんとアナウンスできる会社とそうでない会社だったら、どちらが安心して参加できるでしょうか?
マニュアルが作られ、かつ訓練を従業員が受けていれば、万が一企業に爆破予告の連絡が入った場合であっても参加者を守ることや、その後の捜査への協力もスムーズに行えます。

起こり得る様々な事態を想定し、日頃から対策を練っておくことは、社内の混乱を防ぐだけでなく、外部から見ても安心して信頼できる企業として評価されることにつながります。
対策を作り上げるまでの過程は一時的に負担となりますが、シミュレーションを重ねておくことが、従業員ひいては企業そのものを守る体制の維持につながります。


2 あの事件をプロはこう見る
実際に起きた事件を専門家の目線で振り返ってみます。

01. 京都アニメーション放火殺人事件
京都アニメーション放火殺人事件では、犯人が京都アニメーション第1スタジオの建物1階部分にガソリンを撒いたことで爆発的火災が発生しました。

被害が拡大した原因について
・犯人が1階の螺旋階段付近にて、火を放ったことが原因となり、炎が一気に3階まで上がってしまい避難経路として使えなくなってしまった。
・二方向に逃げられる構造だったものの、フロアが広過ぎたことで逃げられなくなった人が出てきてしまった。
といった建物の構造上の問題が考えられます。

被害を最小限にするための対策としては、内装の段階で「火の回り方」に関心を持ち、例えば「らせん階段のような吹き抜けのある構造では煙が上に侵入するのを防ぐ壁を設ける」「防火扉の設置を義務付ける」などが考えられますが、京都アニメーションのスタジオは火災対策で表彰を受けた事もある優良施設でした。
構造上、できる対策は十分なされていても、慢心をせずに命を守るためのシミュレーションを重ねていく必要があります。

02. 雑居ビルでの火災(福岡県) ・放火(大阪府)
福岡市整形外科医院火災や北新地ビル放火殺人事件の事例で見ると、オフィスビルが各フロアで二方向に避難経路を設けるのが難しく、これが被害拡大の要因となりました。

避難経路や避難方法などは従業員などに事前に教育しておくことはとても重要です。
プロから社内レイアウトから想定できる火の回り方を教えてもらい、火の回りを遅くする事前対策に加え、火災が発生した際にどう逃げるのかをレクチャーしてもらうなどの対策をしておいた方がよいでしょう。


3 防災・防犯への対策で必要な視点とは
防災・防犯に対して、知識や対策が必要なことは誰もが理解しているでしょう。
しかし、実際に困った状況に置かれたことがなければ切迫感の無さから「今後考えていけばいいか」と先延ばししてしまいがちでもあります。
先延ばしにせず、一歩を踏み出すために必要な視点とはどのようなものでしょうか。

01. 【防災】BCPマニュアルはイメージの共通化が重要
BCPとは事業継続計画のことで、災害などの緊急事態が発生したときに、会社が被害を最小限に抑え事業の継続や復旧の方法をマニュアル化したものです。
BCPの策定は、まず経営者層の意識を高めていくところから始まります。
経営者・役員レベルの方々が持つ防災へのイメージを一本化し、建築構造や法律などを踏まえつつ課題を見つけ、そしてBCPに落とし込んでいくのです。

いきなりマニュアルを作って導入しただけでは、たとえ内容が充分なものだったとしてもいざという時に行動が伴わず、機能をしません。
フロー図など従業員の誰もが見やすいかたちで提示して、徐々に意識改革をしていくことが大切です。
BCPを策定するといったプロセスの中で、企業に属する個々人が防災・防犯への意識を高め、実際の状況下でも、対応できるような取り組みにしていけるかどうかがポイントになります。

02. 【防犯】想定外を考え、対策を練っていく
火災などの危険性は誰もが考えることでしょう。
しかし、例えばテロや爆発物といった事例に対しては「自社には関係ないだろう」と捉えがちです。

たしかに想定する事態に遭遇する確率は低いかもしれませんが、対策を練ることは「必要な無駄」です。

例えば、お客様を招く株主総会などで「もしガソリンを撒かれたら」と想定してみましょう。
ガソリンなどが使用されると普通の消火器では消火しきれないので、施設との協議は必要になりますが、粉末型の消火剤を設置したり耐火性の高い壁を取り付けるなどの対策が必要になります。
また、点検口や消火器に自社で判別できるマークを付けておく事で、不審物の探索をする際に確認の工数を削減する事につながります。
このような対策は結果として、有事の際に事業活動の停止期間を短くする、警察などとの連携を容易にするといった効果も期待できます。

03. 安全を確保する防災検討は半永久的に継続を
様々な災害や犯罪が起こり得る状況の中で、最小限の防災・防犯対策を一度施しただけでは不充分です。
対策をしっかりと整え、不測の事態が起こったとしても犠牲を少なくし、かつ企業活動も止めず安全・安心を確保できる体制を作りましょう。

さらに、マニュアルやBCP、避難時の流れなどの資料は一度作っただけではいざという時に機能しません。
時代のニーズをくみとり、訓練を重ねてブラッシュアップし続けることも忘れないようにしましょう。

地震が多い日本では、ほとんどの企業が「災害に対する備えの必要性」は認識していると思います。
一方で「どこまで対策しておくべきか?」を見定めることは簡単ではありません。
判断がつかない時にはプロのサポートを受けながら、それぞれの企業の置かれた環境や状況に沿った対策を確立していく事も検討してください。
経営者は事故・事件のその後まで考えていく必要があります。BCPを策定しておけば、被害からの復旧が迅速に進められますが、それに加えて「損害を受けた後に資金難に陥ってしまったらどうするか?」「建物などの損傷はどこに依頼して直すか?」といった一歩先についても想定して備えておかなければなりません。

どこまで対策を講じるかを考えていくと「そこまで想定するのは無駄 だ」という思いを持たれるかもしれません。
確かに、様々な事態を想定し対策を講じていけば、結果的に実行されない対策が多くなります。
しかし、その対策は最終的には無駄になってしまったとしても「必要な無駄」です。
想定できる限りのことを準備しておくことが防災や防犯など会社の危機管理において重要な視点です。


今回のコラムは、以下の顧問の方にご監修いただきました。


髙木 敏行 氏
株式会社かんがえる防災 代表取締役社長
・元消防士/消防司令補
・防災士/防災危機管理者/危機管理士(自然災害)
多くの災害に従事し、被災者のほとんどが備え方を知らない事実を知る
備える事で災害からの人的被害をゼロにしたいという想いで起業


西岡 敏成
ジェイエスティー顧問
・元兵庫県警警視長
・警備・公安・刑事に従事
・2002年日韓W杯警備を指揮後、姫路警察署長・播磨方面本部長を歴任
・元関西国際大学人間科学部教授

ジェイエスティーには危機管理エキスパートが複数在籍しております。
ハラスメント関連の法改正対応はもちろん、個人情報保護や暴対法対策など、危機管理全般のご相談はジェイエスティーまで。

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