今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。
1 会社を守るために必要な反社会勢力への対応方法
・バックグランドチェックの重要性
・契約時に注意するべきこと
2 危機管理対応が不充分であった場合の事例
【事例】利益供与により警察から暴力団排除条例を適用される
【事例】暴力団との関わりが判明し保険契約が解除に
【事例】反社会勢力との付き合いによって倒産
3 反社会勢力への危機管理対策として企業が行うべき4つのポイント
・事前に担当者や面談時について取り決めておく
・コーポレートサイトで姿勢を表明する
・接待時に利用する店等にも注意を払う
・本社ではなく店舗など担当がいない事業所に来店した際の対応を用意する
社内外での危機管理対策へのご参考としてご活用くださいますと幸いに存じます。
1 会社を守るために必要な反社会勢力への対応方法
現在、全都道府県で「暴力団排除条例(通称:暴排条例)」が制定されており、暴力団への利益供与、協力、利用などが禁じられています。
都道府県によって条項や取り決め内容に違いはあるものの、もし取引を行っている人物や組織が反社会勢力だった場合、あるいは反社会勢力に準ずるグレーゾーンにいる存在であった場合、付き合いが存在しているという事だけで自社の信頼を損ねかねないリスクをはらんでいます。
今回は反社会勢力への対応ならびに危機管理対応について、弊社の顧問である櫻井裕ー氏と西岡敏成氏に対談いただきました。
反社会勢力への対応は業界・業種によって発生頻度や徹底度合、コストのかけ方などがそれぞれ異なってくると思われます。
しかし、いずれの場合についても「万が一の事態」に対応するためには日頃から体制を整えておくことが重要です。
01. バックグランドチェックの重要性
・素性がわからない人物からコンタクトがあった
・新たな組織と契約などを行う
・企業の買収や事業承継を受ける際に、経営陣や取引先、旧株主に素性が分からない人がいる
・知り合いからの紹介ではないきっかけで採用を行う
などの場合には反社会勢力かどうか確認するために「バックグラウンドチェック」の活用を試してみてください。
バックグラウンドチェックとは、経歴や素性などの背景を調査するいわゆる「身辺調査」のことです。
バックグラウンドチェックを自社で実施する場合、新聞や週刊誌などのメディア媒体が報じた過去の報道に関する情報をインターネット等で収集する方法があります。これにより事件に関りがあったことが公知となっているような人物が関与しているかどうかについて把握することが可能です。疑義のある人物の関わりが判明した場合は、速やかに暴力追放運動推進センター(暴追センター)や最寄りの警察署に相談しましょう。
また、対象となる人物が過去のニュースなどでは確認できなかったとしても、本人やその周りに反社会勢力の「共生者」が存在しているケースがあります。共生者とは「暴力団の資金獲得に向けた活動に協力する人物、グループ」を指します。このような人物は直接反社会勢力の関係者として把握することは困難な場合があります。そのため、少しでも違和感がある場合は専門家に調査すべきか相談することを検討しましょう。
02. 契約時に注意するべきこと
契約書を作成する際には「暴力団排除に係る特約条項(通称:暴排条項)」を必ず盛り込んでおくことをおすすめします。万が一、契約後に反社会勢力と関わりのある人物や組織であることが判明した場合に条項を記載しておくことで契約違反を理由に契約解除をしやすくなります。また、契約の当事者同士が反社会勢力でないこと・関わりがないことをお互いに表明し、署名する「確約書」を準備するとより効果的です。最近では暴排条項が入った契約書の割合は増えていると思いますが今も条項が抜けていたり、記載はされているが内容が薄いような契約書を目にする事があります。
すでに暴排に係る条項を準備しておらず契約を結んでしまったというケースもあるかもしれません。このように契約後に反社会勢力に関係する人物であると判明した場合には民法上の契約解除を申し立てることができます。
ただし、実際に契約解除を行う際は慎重にやり取りの仕方を検討する必要があります。契約解除の理由として「あなたが反社会勢力に関係をもっている人物だから契約できない」と伝える事が望ましくないケースもあり得ます。契約解除の理由を「反社会勢力とのに関係を持っていること」であると述べてしまうと、そのように主張する根拠は何かを立証しなければいけなくなるかもしれません。暴排条項をきちんと明記をした契約を結んだ上で「自社の審査基準に則って、契約することができない」などと伝える工夫もあり得ます。
2 危機管理対応が不充分であった場合の事例
「これまでも問題なかったのだから、きっと大丈夫だろう」と反社会勢力との交際を続けてしまった場合「関係遮断対象者」とみなされてしまう危険があります。そうなってしまった場合、企業にどのような影響をもたらすのでしょうか。実際に起こった暴排事例をいくつか紹介します。
【事例】利益供与により警察から暴力団排除条例を適用される
飲食店を営む代表者Aは、自店のトラブル防止や解決に暴力団の威力を利用していました。Aは暴力団がトラブル解決を名目に依頼料などの金銭を要求する意図であることを知りながら、別の飲食店のオーナーBに暴力団員を紹介。さらに、打ち合わせや待機場所にAの店を利用させていることも判明。この事例では暴力団への財産上の利益及び役務の供与に該当するとされ、警察より勧告を受けました。
【事例】暴力団との関わりが判明し保険契約が解除に
企業の代表者Cは、保険会社2社と保険契約を締結しました。しかし後にCが、暴力団や共生者と関わりがあることが判明。裁判によって「反社会勢力を社会から排除する妨げになるもの」であると判断され、暴排条項に基づき契約解除となりました。
【事例】反社会勢力との付き合いによって倒産
建築会社の取締役社長Dは、暴力団員とゴルフや飲み会などで付き合いがありました。一度警察から指摘を受けたものの「付き合いはない」と証言。その後、関わりがあることが判明し同社の金融機関の口座が凍結。資金繰りが悪化し短期間で会社は倒産。職を失った元社員は再就職活動をするも「暴力団に関係のあった会社の人とは面接できない」などと言われ、世間からの偏見に苦しめられることになりました。経営者の危機管理の低さが従業員のその後の人生に大きな影響を与えてしまった事例です。
3 反社会勢力への危機管理対策として企業が行うべき4つのポイント
反社会勢力とのトラブルから自社を守るためには日ごろから対策しておくことが重要です。実際に行っておくべき対策について4つのポイントを解説します。
・各個人が日頃から意識できているか
・事前に担当者や面談時について取り決めておく
・コーポレートサイトで姿勢を表明する
・接待時に利用する店等にも注意を払う
・本社ではなく店舗など担当がいない事業所に来店した際の対応を用意する
対応策が奏功した好事例とともに、ひとつずつ紹介します。
01. 事前に担当者や面談時について取り決めておく
反社会勢力がコンタクトを取ってきて何らかのやり取りが必要になった場合に備えて、事前に対応方法を決めておくことが重要です。話し合いなどの対応時に社長などトップが直接出る必要はありません。電話であっても、直接の応対であっても必ず担当者を通して対応する体制を作っておきましょう。担当者に対しては電話がかかってきた際の応答や録音を行う方法などの対応マニュアルを作成し、対応の仕方を教育しておくことも必須です。
また、直接の対応が必要になった時には、以下の点に注意しましょう。
・相手の指定した領域(事務所など)には入らない
・自社に招く場合、対応する部屋を決めておく
・担当者は聞き役・録音役・メモ役など役割を決めて必ず複数人で対応する
・面談のはじめに「話し合いは○分です」「様子を録音(録画)します」と明確に告知しておく
面談の時間などを明確に告知しておくことにより、指定した時間以上に相手が居座ってしまった際は不退去罪に該当するとして、警察の協力を仰ぎやすくなります。
また、施設の管理規程として相手方の話し合いに同席する人数に制限をかけることができます。人数制限を行うことで大人数での訪問を防ぐことができ、よりスムーズな話し合いができます。さらに、話し合いを行う部屋の外に110番へ運絡するための担当者を置いておくことも効果的です。
やり取りの際は毅然とした態度で臨むことがとても重要です。おどおどした態度で対応してしまうとそこに付け込まれる可能性があります。 対応の際にあたふたしないためにも、事前の対応を明確に決めておきましょう。
【事例】録音によって初期段階で対応
とある企業は、反社会勢力からの不当要求に悩まされていました。相談を受けた専門家は総務部の従業員を対応する担当者に指名し、対応方法などを準備。直接相手が来社した際に「この話し合いは録画します」とはっきりと告知し、録音機とカメラを机上に置いて対応したことにより相手は退散し、対応初期の段階で実害防止に成功しました。
02. コーポレートサイトで姿勢を表明する
企業によっては、自社HP内の「社長挨拶」のページなどで暴排について触れていたり、社内に暴力団排除委員会を設置して活動を紹介しているケースもあります。暴排対策を外に向けて明確に示しておくことで「我が社は反社会勢力との関わりを一切持たない」という予防線を張っておくことができます。また、反社会勢力に負けない強い意志を持つ会社として内外にアピールする事につながります。
03. 接待時に利用する店等にも注意を払う
経営者層や従業員が接待時に利用する店についても事前にチェックしておくことが賢明です。店に反社会勢力と疑わしい人物がいるだけでアウトですが、一見しただけでは分からない場合が多いのが現状です。バックグラウンドチェックと同様に、自社での調査には限界もあるため、重要な機密情報を話す可能性がある場合は、専門家に相談してみましょう。
【事例】経理担当者の機転で暴力団と関係のある店と関係断絶
とある企業では、経理担当者が領収書などを確認している中で「社長が利用した飲食店は安全な店なのか」という疑問を持つようになりました。同社の役員に相談した上で、専門家へ該当の飲食店を調査。その結果、飲食店の女性オーナーが暴力団員の関係者であり、さらに暴力団へ「みかじめ料」を納めていることが分かりました。社長はその事実を知り、飲食店の利用をやめて関係を絶つことができました。
この好事例では、経理の担当者が疑問を持ったことが発端です。企業防衛の意識を従業員が持つことにより事前に対応することに成功した例と言えます。
04. 本社ではなく店舗など担当がいない事業所に来店した際の対応を用意する
サービス業など店舗を構えている場合は、反社会勢力の人物が来店する可能性が大いにあります。このような場合も日頃からの備えが重要です。
来店した際に反社会勢力であることが分かっている場合は、第一に「入店禁止です」と伝えるようにしましょう。ここでも曖味な態度は見せず、毅然とした態度ではっきりと断ることが大事です。また、みかじめ料を請求してくる場合もあります。本来は恐喝罪に該当する可能性が高く警察に相談すべき状況ですが、企業側が穏便に収めようと少しでも払ってしまうと、企業自身が条例達反の対象となることがあります。先方からの要求ははっきりと断りましょう。
各都道府県に設置されている暴追センターでは、希望者に「暴力追放ステッカー」などの各種掲示物を配布しています。店先にこのようなステッカーを貼っておくことで、入店を躊躇わせる効果が期待できます。暴追センターでは万が一の際に相談できるだけでなく、確約書のテンプレートなど防止策に役立つ情報やツールなども手に入れることができるので、ぜひ有効活用してください。
05. 予防策と対応策の両輪で反社会勢力に負けない組織を!
反社会勢力との関係をもってしまった際に「何とか自社で解決できないものか」と考えてしまうことがあるかもしれません。多くのお客様を抱えていらっしゃる企業なら「なるべく大事にしたくない」「マスメディアで報道されるような事態は避けたい」と考えるのは当然です。
しかし、万が一の事態が起こった際に重要なのは初期対応です。少しでも金銭の受け渡しを行ったり、先方からの要求を呑んでしまったりすると、支払った事実自体がスキャンダルとなり、その後さらに付け込まれてしまいます。そうならないためにも専門家や警察、暴追センターといった専門機関へ一刻も早く相談しましょう。早期対応が大きなトラブルに発展させないために最も重要です。
そして、そもそも知らぬ間に反社会勢力と関わりを持ってしまうという事態を防ぐために、平時から「予防策」と、もしもの際の「対応策」を練っておくことが大切です。「暴排のために、今日から自社でできることは何か」を再度、確認してみましょう。
今回のコラムは、以下の顧問の方にご監修いただきました。
櫻井 裕一
ジェイエスティー顧問
・元警視庁警視
・組対四課管理官/機動捜査隊、新宿署組対課長、
警察庁広域技能指導官として全国の暴力団担当捜査員に捜査技能を指導した
・現在はSTeam Research & Consulting 株式会社代表を務める
西岡 敏成
ジェイエスティー顧問
・元兵庫県警警視長
・警備・公安・刑事に従事
・2002年日韓W杯警備を指揮後、姫路警察署長・播磨方面本部長を歴任
・元関西国際大学人間科学部教授
ジェイエスティーには危機管理エキスパートが複数在籍しております。
ハラスメント関連の法改正対応はもちろん、個人情報保護や暴対法対策など、危機管理全般のご相談はジェイエスティーまで。