Column コラム

Vol.12【誹謗中傷への対策方法と韓国で発生した梨泰院雑踏事故を解説】

今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。

1 誹謗中傷の定義と企業へ及ぼす影響
・そもそも誹謗中傷とは
・誹謗中傷を行う傾向にある人物像
・インターネットと誹謗中傷

2 誹謗中傷がもたらす企業への影響
・誹謗中傷が企業に与える影響
・企業への誹謗中傷に関する事例
・もし従業員が会社へ誹謗中傷を行った場合は
・自社が誹謗中傷の対象となったときの対応

3 危機管理のプロ目線から見る梨泰院雑踏事故について
・梨泰院雑踏事故はなぜ起きたのか
・日本で発生した2001年明石花火大会歩道橋事故
・大規模イベントを主催する際に気を付けるべきこと

社内外での危機管理対策へのご参考としてご活用くださいますと幸いに存じます。


1 誹謗中傷の定義と企業へ及ぼす影響
近年よく耳にする「誹謗中傷」は社会問題化し、2022年7月に侮辱罪が厳罰化され、
10月に改正プロバイダ責任制限法が施行されるなど、法整備が進められています。
企業としての信頼を保ち続けるには誹謗中傷がもたらす影響を正しく認識し、適切な対応を取らなければなりません。
今回は誹謗中傷問題が企業にもたらす影響や取るべき対応について、弊社の顧問である西岡敏成氏にお話を伺いました。

01. そもそも誹謗中傷とは
まず誹謗中傷についてその言葉の定義を捉え、どのようなリスクが潜んでいるかを正しく認識する必要があります。
誹謗中傷という言葉は悪口という意味の「誹謗」と根拠のないことをいう「中傷」が組み合わさった言葉です。
よく「批判」と「誹謗中傷」が混同されますが、前者は物事の良い部分と悪い部分を対比した意見であるのに対し、後者は一方的な悪口という点で両者には明確な違いがあります。

最近SNS上での誹謗中傷が話題に上ることが多いですが、インターネットが普及する以前にも公共の掲示板や相手の住居にビラを貼り付けるなど、誹謗中傷は存在していました。

しかし、ビラ張りの場合、ビラを作成した上で実際にその場に足を運ぶ必要があり、そこには労力と正体が露見しやすいという危険が伴いました。
この点が現在の匿名性を盾とするSNS上などでの誹謗中傷との大きな違いでしょう。

02. 誹謗中傷を行う傾向にある人物像
インターネットでの誹謗中傷を行う傾向のある人物像として、以下の特徴があります。

●反社会的な人格保持者である
・自己中心的で自己愛が強い
・自分の意見で他者を操作しようとする

●周囲に対して劣等感を抱いている
・不満のはけ口を求めている

●偏った正義感を持っている

被害を防ぐには、まず誹謗中傷を行う人物の特徴を押さえた上で対策をとるようにしましょう。

03. インターネットと誹謗中傷
インターネット上で実際に誹謗中傷を行っているのは、SNSをはじめとするネットユーザー全体の中でわずか0.5%のユーザーであると言われています。

現在の日本社会では家族や周囲の人との人間関係が以前と比較して希薄化しています。かつては地域社会に必ず存在した、いわゆる「お節介な他人」が減ったり、核家族化が広がったりしたことから、学校や家庭という環境自体が地域社会と連動せずに孤立し、伴って生活する上で関わる他人が少なくなりました。そのため他者の気持ちを理解するような「共感性(SNS上のコメントに単にいいね、を押すようなものとは別のものです)」を育みにくい傾向にあります。閉鎖的な社会環境への変化に加え、インターネットの大きな特徴である匿名性が誹謗中傷に拍車をかける形となっています。


2 誹謗中傷がもたらす企業への影響
もし自社が誹謗中傷の標的とされた場合、どのような影響があるでしょうか。
誹謗中傷がもたらす企業への影響や、実際の事例を交えて、誹謗中傷への対応をどのように行っていくべきか、事前と事後の視点から解説します。

01. 誹謗中傷が企業に与える影響
企業に与える大きな影響として、以下のようなことが考えられます。

●誹謗中傷を耳にした優秀な求職者が、志望を取りやめたことによる雇用機会損失
・デマを聞いた従業員のモチベーション低下や会社に対する疑心暗鬼に加え離職による社外への人材流出
・ブラック企業という社会認識が定着し、金融機関からの融資が受けられない
・新規取引の足かせになる

たとえ誹謗中傷の中身が根も葉もないことであろうとも、それを目にした第三者には真偽は分からず、こういった影響が大なり小なり起こりうるのだということを十分認識しておく必要があります。

02. 企業への誹謗中傷に関する事例
企業への誹謗中傷に関する事例として、一族経営を行う企業に対する口コミサイトヘの投稿を紹介いたします。
企業Aは自社の技術を維持するため社内教育を厳格に実施していました。
しかし、その風土を従業員Bがブラック企業と評価しロコミサイトに投稿 しました。
ロコミ内容が入社志望者の目に触れ入社を辞退し、企業Aは技術継承の機会を逃してしまいました。

03. もし従業員が会社へ誹謗中傷を行った場合は
万が一従業員が自社への誹謗中傷をした場合、その行為が業務時間内で行われたか否かで対応が異なります。
もし業務時間内であればその従業員が職務専念義務を放棄したという理由で懲戒処分などの然るべき対応をとることができます。
しかし業務時間外であればあくまで一個人の私生活上の行いとみなされ、会社として直ちに処罰を与えることは困難です。

04. 自社が誹謗中傷の対象となったときの対応
前提として必要以上に相手へ反応しないことが重要です。
その上で被害が想定されると判断した場合には、適宜以下の対応をとることが有効です。

●誹謗中傷を行う個人の特定や法的処置に必要な証拠を集める
(例えばアカウント名や投稿日時などをスクリーンショット等で証拠を保存しておく)
・法的判断が伴う場合があるため弁護士や警察へ相談する
・プロバイダーヘ削除依頼を行う

しかし事後対応は自社が望む対応が必ずなされる保証はありません。
誹謗中傷対策は「されるもの」という前提に立って事前に予防対策を実施しておくことが有効です。

事前に取り組むべき予防対策の一環として、例えば自社社員による誹謗中傷の場合であれば、あらかじめ就業規則に誹謗中傷に準ずる行為が処罰対象であることを明文化しておくことが挙げられます。そうすることで社内からの誹謗中傷への抑止力になるとともに、事案が発生してしまった際に処罰の根拠とできます。また日頃から従業員の諸問題を「きちんと社内で対処し、解決していく」とトップが明言し、福利厚生を充実させ企業風士を醸成していくことも有効です。また外部窓口を含めた相談窓口を用意することで、従業員の発言の矛先が外部に向きにくいようにします。

誹謗中傷に対して事前にできる対策をとりつつ、万が一被害に遭った際にも適切な対応をとることで、企業としての姿勢を保つことが肝要です。


3 危機管理のプロ目線から見る梨泰院雑踏事故について
2022年10月29日、韓国・梨泰院に集まった群衆がドミノ倒しとなり、150人以上の犠牲者が出る痛ましい事故が発生しました。
この「雑踏事故」はなぜ起きてしまったのでしょうか。また大規模なイベントを開催する上での警備について、留意すべき点はどこにあるのでしょうか。日本で2001年に発生した「明石花火大会歩道橋事故」で警備に関わった経験も交えて、弊社顧問・西岡敏成氏に引き続きお話を伺います。

01. 梨泰院雑踏事故はなぜ起きたのか
今回の梨泰院におけるハロウィンイベントには約10万人もの人が集まったとされますが、2017年の同イベントには、その2倍の約20万人が集結したと言われています。2017年当時は警察官が4600人体制で配備され、一方通行の誘導や車両規制などの様々な対策がとられたそうです。

今回は3年ぶりの行動制限が解除された中での開催で、警備体制を指揮する人事の交代などから、人が集まることに対する被害想定が甘かったのではないかと西岡氏は指摘します。幹線道路から細い路地に入る「ボトルネック構造」であるような現場では、人の渋滞が起きやすい場所として事前の検証が必要です。道路を一方通行とし、群衆が滞留してしまった際の逃げ道を想定し、幹線道路の車両を通行止めにして歩行者天国の状態にしておくなど、綿密な警備計画の策定が必要でした。

02. 日本で発生した2001年明石花火大会歩道橋事故
日本でも2001年兵庫県明石市にて、花火大会に集まった人が歩道橋でドミノ倒しとなり11人の犠牲者を出した「明石花火大会歩道橋事故」が発生しています。当時西岡氏は兵庫県警に在職し、神戸本隊にて100万人規模の警備業務に当たっていました。

現場は花火大会会場の最寄り駅となる朝霧駅の出口からすぐに歩道橋へと入る立地です。事故発生時は駅から花火大会会場へ向かう人の流れと、会場方面から駅に向かう人の流れが双方向となっており、流れがぶつかったことで事故が誘発されたとされています。

当日は会場周辺に集まった暴走族への対応に人員を割いており、雑踏規制や誘導に対して警備人員を割けていなかったことも、要因のひとつと西岡氏は指摘します。

03. 大規模イベントを主催する際に気を付けるべきこと
これから徐々に行動制限が撤廃されていく社会の流れの中で、大人数が集まるイベントを開催するにあたり、留意すべきことは何でしょうか。

・想定は最小ではなく最大を
警備に割く人員は最小人数ではなく、最大人数で準備を進めるのが望ましいでしょう。特に当日の観客の動綿を綿密に想定し「交通規制」「雑踏規制」「誘導整理」の観点から警備計画やマニュアルを作成しておく必要があります。
開催中でも必要ないとわかったところは人員を調整し、急な対応が必要になった箇所へ、その人員を投入できるという状況が理想的です。
またいつでも自由に動ける遊撃部隊をあらかじめ組織しておくことも大事です。

・希望する警備内容を実現できる警備会社か確認を
イベント警備を警備会社に依頼する際、どのような会社に委託するかも重要なポイントです。イベントの内容や想定される来場者の人数や層を鑑みて、その警備に足る経験や装備、機材が揃っているのかどうかが判断基準となります。
警備会社の保持する資格も併せて確認し、自社が望む警備を実現できるかの事前確認を徹底して行うようにしましょう。

・消防・警察に協力を仰ぐ
そしてイベントを開催する際は警備依頼の有無によらず、まずは消防と警察に届け出をしておくことが重要です。屋内外問わずイベントの概要や開催場所、考えている対策を伝えておくことで、万が一何らかの事故が発生した場合の対応体制を整えておけます。
主催者、警備会社、消防・警察の任務分担を明確に認識し、警備計画に盛り込んでおくことで有事の際の迅速な対応に繋げられます。

04. 事前にできる対応策が事後の適切な対応に繋がる
誹謗中傷も大規模イベント開催も、万が一の事態を想定し事前に対応策を講じることで有事の被害を最小限に食い止められます。

「根拠のない悪口」である誹謗中傷は以前から存在していましたが、インターネットの普及とともに形を変えて、社会問題となっています。 自社が誹謗中傷の被害に遭えば、人材流出や雇用機会の損失といった企業経営に打撃を与えかねない影響も想定されます。

また、韓国・梨泰院で発生した多くの犠牲者を出した痛ましい事故を他山の石とし、自社でできる事前対策に抜け漏れはないか、確認するきっかけとなれば幸いです。


今回のコラムは、以下の顧問の方にご監修いただきました。


西岡 敏成
ジェイエスティー顧問
・元兵庫県警警視長
・警備・公安・刑事に従事
・2002年日韓W杯警備を指揮後、姫路警察署長・播磨方面本部長を歴任
・元関西国際大学人間科学部教授

ジェイエスティーには危機管理エキスパートが複数在籍しております。
ハラスメント関連の法改正対応はもちろん、個人情報保護や暴対法対策など、危機管理全般のご相談はジェイエスティーまで。

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