今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。
企業の視点で考えるパワハラの境界線と影響
パワハラ防止法が令和4年4月1日に施行されてから1年が経過しようとしております。この時期に改めてハラスメントに関して、ハラスメントであるかどうかの境界線はどこにあるのか、またハラスメント事案により想定される企業への影響など、絹織として適切なハラスメント対策とは何かについて弊社顧問である西岡敏成氏に話を伺いました。
※本内容は西岡氏へのインタピューを基に再編集したものです。
1:パワハラの境界線
パワハラの境界線について特に注意すべき点は「役職や業務の知識数、経験値や経歴などの条件において優位に立っている」人物からの「立場が弱い」人物に対する言動行為です。
立場の優劣がある関係において「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動はパワハラに該当する可能性が高まります。職場においては上司から部下への言動や、同期であっても実績などに応じて優位的立ち位置にいる人物からの言動などは注意が必要です。
またパワハラは同じ行為であっても、受け手の受け取り方次第でパワハラと捉えられる場合も問題にならない場合もともにあり得ます。
そのため、パワハラの線引きにおいては画一的に考える事は難しく、従業員一人ひとりに合わせて事例ごとにきちんと考えていくことが重要となります。
2:パワハラが発生する原因
パワハラが発生する原因は以下のようなものが考えられます。
コミュニケーション不足
上司と部下の間でコミュニケーションが不足していることが、パワハラの原因の一つです。コミュニケーション不足を放置すると、上司と部下ともに互いの性格や人間的な理解を深めることができず、言動の意図や真意を十分に理解できなかったり、距離感の取り方を誤るなど間違った接し方につながり、最終的には大きな誤解や不信につながっていきます。
コミュニケーションの場を意識的に設け、相互理解を深めることが重要となります。
個人に適していない画一的な指導
上司から部下へ画一的な指導を行っている場合はパワハラが発生する可能性があるため注意が必要です。パワハラの境界線でも確認しましたが「業務上必要かつ相当な範囲」という言葉の意味の受け取り方は人によって異なります。そのため相当であるとされる範囲を見定めながら丁寧に言語化しつつ、指導を受ける側の心身状態を踏まえた個別指導を行いましょう。
職位に対する誤認
上位者である立場の人物は、その立場の強さから無条件で自分の言動が正しいと誤認してしまう可能性があるため、指導を行う際にはその目的を明確にすることが重要です。目的を明確にすることで客観性を持った対応をすることができ、主観に基づく偏った指導を防ぐことができます。
3:パワハラによって企業へ発生する影響
企業においてパワハラが認知された際には、刑事責任、民事責任、行政責任、加えて社会からのパッシングなどを考慮する必要があります。
例えば、個人の人格を否定するような発言を伴っていたパワハラの場合は名誉毀損罪に該当する可能性があり、その他にも暴行罪や脅迫罪といった刑事罰に発展していく可能性と、被害者への慰謝料として賠償請求を求められた場合は民事上の責任も問われます。
さらに、行政から職場環境の改善命令を受けるなど、行政上の責任を負う可能性もあります。
その他にも、パワハラ問題が広く世間に認知された場合は、社会からのバッシングヘの対処が必要となります。
対応を怠り、社会からの企業信頼が失われれば、企業イメージの低下などに直結します。
社内においてはパワハラ問題が起きることにより離職率が上がり、それに伴う生産性の低下を誘発する可能性があります。またブラック企業として認知されてしまえば、新たな人材雇用も難しくなり、結果的に生産性が落ち続けていくという負の連鎖が起きます。
このような事態に陥ることを防ぐためにも、ハラスメント発生を未然に防ぐ事前対策、それでもなお発生してしまった際の事後対策を講じておくこと、を心がけてください。
パワハラヘの対策
パワハラによる企業への影響を認識したうえで、企業として問題が起きることを前提とした対策をどのように講じればよいかを引き続き西岡氏に伺います。
1:トップ自らパワハラヘの意識を明確に示す
パワハラ対策としてまず重要なのは企業とトップ自身がパワハラ問題に対しての姿勢を明確に打ち出すことが重要です。
風通しの良い職場環境作りや相談窓口の設置など具体的な行動も合わせて、従業員に対して明確に示すことが企業トップには求められます。
トップ自らが「パワハラは人権侵害に該当する行為として許されないんだ」という強い意志を表明することで、従業員もそれに従うような環境作りをしようというような土壌が生まれます。
さらに、企業理念としてホームページなどに方針を記載すれば、対外的にもハラスメント対応を重視している企業として信頼を得ることにも繋がるかもしれません。
2:就業規則ヘパワハラヘの処罰を記載する
パワハラ発生を防ぐ対策として就業規則にパワハラ発生時の処分を明記することも有効な方法です。深刻度に応じた処分(懲戒や出勤停止)を明記することで、パワハラに対する組織の共通認識を作ることができます。
この処罰は役職や立場を問わずに適応されることが重要であり、大きな企業であれば調査員会や懲戒委員会のもとで処罰が実行されることなども明記することが重要です。
処分の内容に関しては実際の判例なども参考にしながら言葉にしていくことで、パワハラとはつまるところどのようなものなのか、について各人がイメージしやすくなります。
また処分のみではなく処分に至るまでの手順も記載されていることで、パワハラ事案が発生してしまった場合にも被害者が安心して相談できるようになり、組織としても問題の早期発見に繋げられます。
3:相談窓口を設置、周知する
パワハラについても対応可能な相談窓口の設置と、従業員への周知を行いましょう。
相談窓口を設置する際には、相談員の通常業務への負担軽減や相談場所の確保には細心の注意を図らなければなりません。
また、相談員は相談内容の秘密は厳守せねばならず、個別事案に対する良し悪しを評価しているように受け取られる言動は控えるよう注意することが大切です。
個別の判断は調査委員会や懲戒委員会が行うべきもので、相談を受けた時点では相談員は相談内容に関する情報を集めることが役割となるからです。
相談を行いやすい環境を整えるために、対面のみではなく相談専用の電話窓口を設けたり、女性の方が相談しやすいように女性の相談員を配置するなど体制を整えましょう。
企業内での相談窓口の設置は担当者の通常業務への負担となったり、被害者が相談しにくくなるケースもあるため、外部相談窓口を活用するケースが増えています。
4:問題発生後のメディア対応
パワハラの問題が発生してしまった場合は影響が大きくならないように適切な事後対応を行わなければなりません。
特にメディア対応を行う際には、まず事前の情報収集が必要です。
関連する情報を洗いだし、さらに真偽の確証を得られたものを時系列に整理した上でメディア対応を行いましょう。
またメディアヘの情報発信時には緊急記者会見など対面で質問を受ける場を設けることが効果的です。
直接メディアからの質問を受ける場を設けることで事態解決への誠実な姿勢を示すとともに、迅速に嘘偽りのない事実を伝えることを意識して臨むことが重要です。
企業におけるSNSを通じた炎上への危機管理対策
昨今、 SNSを通じて迷惑行為の動画が拡散されることによるトラプルが増えています。
このような影害から企業を守るため、実際に起きた事例を基にどのような危機管理をとるべきか対策の方法を述べていきます。
1:バイトテロの事例
コンビニエンスストアにおける迷惑行為の動画が拡散
コンビニエンスストアのアルバイト従業員が業務中に店内で遊ぶ映像がSNS上に投稿され問題になっています。
動画内容では掃除用具で遊んだり商品のホットスナックを食べる様子が撮影されており、すでに該当の動画は削除されているものの転載された動画は拡散されてしまっています。
問題が発生した企業は謝罪文を公表し社員教育なども含め再発防止に努めるとしています。
従業員の不祥事を未然に防止する
企業として事例のようなトラブルの原因は、従業員本人の単なる軽率な判断であるという可能性もありますが、従業員の労働環境の見直しが必要になる場合もあります。
従業員の潜在的な不満がモラルの軽視につながっている可能性もあるため、ヒアリングなどを行い、業務環境への不満がないかを確認し、必要に応じた対策を講じましょう。
職場環境向上への取り組みを平時から公表することで、問題発生時にも早期に信頼回復が図れます。
問題を起こした従業員のみに責任を負わせるのではなく、従業員を採用している企業自身が使用者責任として問題発生防止に努めましょう。
2:客テロの事例
飲食店における迷惑行為の動画がSNS上で問題に
大手飲食チェーン店において客が、「調味料の注ぎ口を直接なめまわす」といった迷惑行為を自ら撮影した動画がSNS上で拡散され問題となりました。
被害を受けた企業は迅速に事実確認を行い、問題を起こした人物に対して民事・刑事両面での責任を問う方針を示しています。
問題を重大化させないために企業として行うべきこと
問題が発生した際には、事態を重大化させないための事後対応が重要となります。
前提として、どんなに事前の予防をしたとしても問題は起き得るものであることを念頭に、対策を事前に講じておきましょう。
また、問題発生後は事実確認の上で早期に事実を公表し、企業責任を果たすことが重要です。
その際、事実をありのままに伝え、必ず再発防止のための取り組みついて言及しましょう。
適切な事後対応を行うことが企業としてのイメージや信頼の早期回復に繋がります。
問題が起きづらく、対応力のある絹織にしていくために必要なもの
SNSなどを通じた問題の発生は事前に防ぎきれるものではありませんが、基本姿勢として問題が起きないような企業風土を形成していく事はとても重要です。
企業として嘘・ごまかし・隠ぺいを許さない、という意識を持ち、このような企業としての姿勢を上層部自らが実践し、社員教育を行うことが風土の形成や強化に効果的です。
さらに問題があった際に早期発見できるように、立場関係なく意見を述べることができる場を作り、コミュニケーションを深めることでネガティプな情報であっても報告しやすい環境づくりに努めましょう。
普段からの企業風土の醸成が、結果として問題の早期解決への近道にもなります。
特別トピックス
アカデミー賞における危機管理チームの設置から考える危機予測の重要性
アカデミー賞では昨年の舞台上で発生した演者間におけるトラブルを受け、今年の式典開催に向けて危機管理チームを発足させ、危機管理対応におけるさまざまなシナリオを想定していると発表しました。
このニュースを踏まえて危機管理における危機予測について西岡顧問に伺いました。
ポイント:想定されるすべての事案を検証し、対策案を作成する
危機予測を行う際は関係者で集まりどのような事案が想定されるか洗いざらい出し合います。
この際、そのようなことは起きないだろうといった否定的な考えを排除し、想定の幅を広くすることで万が一の事態での対応を可能にします。
西岡氏曰く、警察在籍時に大規模イベントの警備計画を立案する際は、100ページ以上にも上る事案想定と個別の対策を講じたとのことでした。
問題発生確率の高低に関わらず、幅広く可能性を想定することが重要です。
企業においても自社にどのような事案が発生し得るのか、多角的な視点から洗い出し、対策案まで落とし込んでおくことを心掛けましょう。