Column コラム

Vol.26【増加する不気味なローンウルフ型テロから社員・企業を守るために出来ること】

今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。


ローンウルフ型テロとは

昨今の大量殺傷事件は、組織的な複数人の犯行ではなく、ローンウルフ型テロに変質している傾向がうかがえます。
「ローンウルフ型テロ」とは、組織的なテロの一員に加わらず、単独で行うテロのことを「一匹狼」に例えた呼び方です。社会に大きな脅威をもたらし、突発的で予測不能な不気味なローンウルフ型テロの犯罪から、企業や組織の従業員の安全を確保し、危機に効果的に対応するために何が出来るのかを、弊社顧問である西岡敏成氏に話をうかがいます。
※本内容は、西岡氏へのインタビューを基に再編集したものです。
 

1:ローンウルフ型テロの定義と背景

 
ローンウルフ型テロとは、組織的な支援を受けずに単独で不特定多数を巻き込む、凶悪なテロ行為のことです。
犯行に走る背景としてよく見られるのは、社会経済的な不安や政治的な不満、宗教的過激思想のほか貧困、職場のトラブル、いじめ、ストレス、接客に対する不満などが単独、あるいは複雑に絡み合っているケースです。社会的に孤立し自暴自棄となって、自らの信念や怒りをそのまま行動に移すため、犯罪が異常な形で過激化します。

ローンウルフ型テロは突発的に発生するため、予測して防御しにくいのが特徴です。そのため企業が被害を受けるだけではなく社会全体への大きな脅威になりかねません。
本稿では、なぜこのような犯罪が増加しているのかを分析し、企業経営に及ぼす影響について、リスク管理の観点から理解を深めます。

 

2:ローンウルフ型犯罪者の特徴

 
ローンウルフ型犯罪者は「もう自分なんてどうでもいい」と自身の将来を悲観・絶望し、自死したいが実行できず、他人を道連れにして死刑制度を利用する、いわゆる「拡大自殺」といった一面を持っています。また、独自の動機や目的で行動することが特徴で、過激な思想に影響されやすいとされています。

企業がこうした犯罪者から身を守るためには、彼らの心理的特性や動機、行動パターンをあらかじめ分析しておくことが大切です。

ローンウルフ型犯罪の例として、過去には以下のような事件が起きました。

・2008年6月 秋葉原 K元死刑囚(当時25歳)
歩行者天国にトラックで突入、通行人を所携のナイフで刺し、7人死亡10人重軽傷

・2021年8月 小田急線車両内 T被告(当時36歳)
電車内で乗客4人を所携の包丁で切りつけ10人重軽傷

・2021年10月 京王線車両内 H被告(当時24歳)
ジョーカーに似せたスーツを着た被告が乗客を刺して放火し、17人重軽傷
 

3:ローンウルフ型犯罪の分析

 
ローンウルフ型テロによく似ているカスタマーハラスメントや悪質なクレーマー等の行為には、以下のような特徴があります。

・常習的に問題行動を繰り返す
・不当行為の正当性をことさら主張する
・攻撃的な感情をむき出しにする
・生命、身体、自由、名誉、財産などに危害を加えると告知する

これらも疎外感や社会に対する強い不満、ゆがんだ承認欲求、執念などが引き金となりがちです。ローンウルフ型犯罪者の持つ特徴と非常に似ていることから、カスハラ行為者や悪質なクレーマーは、ローンウルフ型犯罪者に変質する危険性もあると認識すべきです。

東京都では、カスタマーハラスメントは深刻化し、防止策として条例を制定する方針を固めました。

当然、カスハラ行為者・悪質クレーマーを、ローンウルフ型犯罪者と同等に扱うのは現実的ではないものの、企業は、個人の強い恨みが、従業員や企業に向けられるリスクに普段から危機意識を持ち、具体的な対策をあらかじめ検討しておくことが重要です。

 

 


対策と防御

LINEUP1では、ローンウルフ型テロが単独で行われる凶悪な犯罪行為であること、原因を分析してみると社会からの疎外感や極端なイデオロギーが引き金となっていることなどを見ていきました。

LINEUP2では、企業がそうしたローンウルフ型犯罪から身を守るために、どのような対策が有効かに関してお伝えします。

 

1:予防と対策の基本原則

 
企業でローンウルフ犯罪の攻撃対象(標的)になりやすいのは主に従業員、社屋、企業が主催するイベント(ソフトターゲット)の3つです。犯罪が突発的で予測不能であるなら、対応の共通ワードは「防御」です。それぞれについて詳しく解説します。

①従業員
店舗の従業員は、顧客からの悪質クレームやカスタマーハラスメントに対応する企業の最前線です。そのため従業員が、顧客対応で困っているなどの情報を受けた際には、直ちに本社の対応窓口担当者や担当エリアマネージャーを現場派遣するなどして従業員の負担軽減を図り、組織で従業員を守る体制づくりが大切です。

②社屋
ガソリン等による放火や有毒化学物質の散布、爆破・殺人予告など、想定される凶悪事件は多岐にわたります。企業はそれらに対処できるよう、あらかじめマニュアルを策定し、全体に周知徹底することが重要です。具体的には、以下の対策が有効と考えられます。
・警報ベル、防犯カメラの設置
・関係者以外立入禁止の表示
・警備員の配置・面会者チェック
・顔認証システム導入・IDカード(識別証)提示
・消火器(油火災対応)、消火栓の設置
・刺股など護身用具の準備
※刺股は一般に重く、長さもあるため、力の弱い方や不慣れな方には取り扱いが難しいです。単独で相手を制圧しようとすると、反撃を受けたり、刺股を奪われたりする危険があります。刺股の弱点を知った上で、相手との距離を保ち、複数人で取り囲んで、威嚇や凶器を落としたりするなどの効果的な運用をすることが理想的です。
・2方向避難経路の確保
・避難器具の整備(オリロー・縄梯子)
・パニックルーム(耐火・防煙・強化ドア・給水器の常設など)の設置など
・玄関から当該社屋のオフィスまで何の障害もなく到達できる動線の見直し
・オフィスドアを自動開閉ではなく、IDや暗証番号を入力するタイプにする

2019年にアニメ制作会社「京都アニメーション」で起きた凄惨な事件では、犯人が容易に建物内に侵入でき、放火殺人が行われました。監視カメラを設置したうえで不審者の侵入を妨げる構造にするなど、事前に複数の防御策を講じることが重要です。

③企業が主催する催しもの(ソフトターゲット)
警備の緩い集客イベントはローンウルフ犯罪者の標的になりやすくなります。入場口を一か所に絞り警備スタッフを配置するほか、少なくとも所持品検査を実施しましょう。可能ならば金属探知機(探知ゲート)などの設置も有効です。事前に爆破・殺害予告があった場合は、必ず警察当局に「警備要請書」を提出し、警察官の派遣要請も視野に入れてください。どこまでやっても「警戒に万全はない」との意識で「大きく構えて、小さくまとめる」ことを実践し、安心・安全を確保しましょう。
 

まとめ

 
企業が突然かつ理不尽な攻撃から身を守るためには、社内外に「従業員を守る」といった強いメッセージを発信し具体的な対策を講じることが大切です。そうすることで従業員の士気が上がり、顧客やパートナーからの信頼確保にもつながります。これは従業員とその家族、さらには企業自体の将来的な成長を守るために、避けて通れない経営責任です。課題について迅速かつ果断に対応し、安全で健康的な職場環境を実現しましょう。

 


知っていますかハラスメント・ハラスメント(通称ハラハラ)~ハラスメントだと騒ぐモンスター社員とどう向き合うか~

LINEUP3では、事あるごとにすぐハラスメントだと騒ぐ「ハラスメント・ハラスメント(ハラ・ハラ)」について紹介するとともに、モンスター社員への対応策に関してお伝えします。

 

1:ハラスメント・ハラスメントとは

 
ハラスメント・ハラスメント(ハラ・ハラ)とは、上司が部下に対し指導上適切な範囲で注意をした場合でも関係なく「パワハラだ」「セクハラだ」と過剰に主張するのが特徴です。たとえば、遅刻してきた従業員に対し注意しただけで「パワハラを受けた」と訴えたり、子どもの体調不良で休暇を取得した従業員に対し、その後の様子をたずねたところ「個の侵害を受けた」などと声を上げられたりするケースが該当します。

真の被害者ではないのに大げさに騒ぐため、嫌がらせ行為と受け取られても仕方ありません。近年、ハラ・ハラがよく見られるようになったひとつの背景として、ハラスメントに関する認知が広がり、予防のために研修教育がさかんに行われるようになったことが挙げられます。

 

2:ハラ・ハラを行う従業員の特性

 
何か自分に気に入らないことがあると、絶対的権力者である父親や先生の名を借りて「言いつけてやる」と言う子どもがいます。すぐにハラスメントだと騒ぐハラ・ハラ社員は、こうした幼いころの意識が抜けきらないまま、絶対的権力を持つ世間や報道機関、SNSを利用し、被害者意識と権利意識が高いことが特徴です。道徳意識や常識が欠落し、自分自身を成長させるための努力を怠っている人、気持ちを我慢が出来ない人も少なくありません。

上司がハラ・ハラ社員へどう対応してよいのか分からず沈黙してしまうと、上司を操れると錯覚し、さらにモンスター化が進んでしまいます。具体的には、「ハラスメント」といった便利な言葉を武器に、上司を馬鹿にするような言動を取るようになります。

 

3:ハラスメントと騒ぐモンスター社員への対応

 
(1) 第一歩は自省から
まずは上司自身が冷静になる必要があります。そして、自身の言動や態度はどうだったのかを冷静に分析します。
(2)会社への事案報告を
会社に相談・通報窓口があればすぐに報告し、顧問弁護士などの専門家に判断を仰ぐことが大切です。間違っても自己解決をしようとしてはいけません。
(3) 会社の調査への全面協力を
事情聴取では、相談者と会社側がありのままの事実を正確に共有することが大切です。会社には安全配慮義務があるため、上司も安全を守られる対象の範囲であるという点を認識しましょう。
(4)擬律判断は慎重に
ハラ・ハラをしてくる部下に対して論理的な反論をするために、事実関係を整理し、時系列で経緯を説明したり、関係者の目撃証言を得て書面化しておくことが重要です。
(5)上司と部下の信頼関係の構築を図る
ハラ・ハラ社員の根本には、上司と部下間のコミュニケーション不足や共有志向の薄さに起因する信頼関係の欠如があると考えられます。ハラ・ハラ社員への根本的な対応として、普段から積極的に上司から声かけを行い、地道に意思疎通を積み重ね、良好な関係をつくることが大切です。

パワハラ事案が起きた場合は、次の3点を明確に説明できるようにしましょう。
①個人的感情からではなく、指導目的に正当性があったかどうか
②能力に応じた具体的な改善方法を示すなど指導内容の合理性、妥当性があったかどうか
③言い回しが適切で個人への人格攻撃がなかったかどうか

 

4:注意・指導上の留意事項

 
上司から注意される回数が増えるほど、ハラスメントだと騒いだり揚げ足を取ろうとしてくるのも特徴のひとつです。常に冷静さと慎重さをもって以下のように対応しましょう。

(1)主観や感情を排除し、自社の規則・慣習などを示してあくまでも客観的な指導に努める
(2)問題点を指摘する場合は、説得力を持たせるために数字や関連資料を提示する
(3)頭ごなしに改善方法を伝えるのではなく「なぜそうなったと思う?どうしたらいいと思う?」など、当事者とともに改善しようという姿勢を取る
(4)問題点に対してたとえ小さな改善であっても適正に評価する
(5)必要に応じて誰しも強く厳しい指導を受けることはあり、自身の成長のために我慢や忍耐が重要なことを教える

 

まとめ

 
モンスター化したハラ・ハラ社員への対応は、管理職にとって悩ましい問題です。しかし部下の指導は避けては通れません。たとえハラスメントだと騒がれたとしても、自身が取った言動が正当な指導と自信があるなら、毅然とした態度で堂々と冷静に対応しましょう。

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