Column コラム

Vol.28【甘い対応は経営危機を招く~労働者を守る安全配慮義務~】

今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。



 
最近、多くの企業が問題を抱えています。これらの問題を確認していくと、経営者たちは「会社の視点」ばかりを重視しすぎて「社会の視点」が欠落している現状が見受けられます。企業が社会に対して負うべき責任について、社会や世間の人たちがますます厳しく捉えている現状の中で「社会の視点」は企業生命に関わる重要なことだと言えます。
 
例えば、もし労働災害が起きて、そこに重大な法律違反が認められれば、会社は刑事的な責任や民事的な責任を問われることになります。
 
また、長時間労働が常態化しているにも関わらず、それに対する対策をしないでいる企業があるとします。こうした企業で労働災害が発生した場合、会社は安全を確保する義務を怠った責任を問われます。労働者が精神的な問題を抱えるようになった場合も同様です。
 
企業は自分たちが負う責任についてよく理解し、労働者の安全をどのように守るかを真剣に考える必要があるのです。
 
※本内容は、西岡氏へのインタビューを基に再編集したものです。
 
安全配慮義務とは

1:使用者と労働者の関係

 
使用者と労働者の関係は、労働者が雇用契約を結ぶことで始まります。この契約によって労働者は、使用者に従属し、労働の義務が発生します。その代わりに、使用者は労働者に賃金を支払う義務が発生します。
 
さらに、使用者は労働者の安全と健康を守る義務も負っています。ここが非常に重要なポイントで、この義務を怠ると、最悪の場合、企業は経営危機に直面する可能性があります。労働者は企業にとって貴重な資産であると認識し、配慮をする必要があるのです。
 

2:安全配慮義務の法的根拠

 
 安全配慮義務については、労働契約法や労働安全衛生法などで言及されています。企業の責任であり、社長や経営者だけでなく、部長や課長、工場長、エリアマネージャーなどの管理者も職責として配慮義務を負います。
 
・安全配慮義務の法的根拠と内容

労働契約法では、企業は従業員の生命や身体の安全を保つために必要な配慮をしなければなりません。つまり、従業員が安全で働きやすい環境を提供することが求められます。
 
労働安全衛生法では、事業者は単に最低限の基準を守るだけでなく、快適な職場環境を実現し、従業員の安全と健康を確保するように努めなければなりません。法律は頻繁に改正されているため、企業は常に最新の情報に基づいた対策を考える必要があります。
 
・安全配慮義務の対象者範囲
安全配慮義務は、企業に所属する全ての従業員や下請け業者、派遣社員など、同じ職場で働く全ての人に対して適用されます。つまり、どの従業員も安全に配慮することが求められます。

・安全配慮義務違反の罰則
安全配慮義務違反があった場合は、労働契約法には罰則が特に定められていませんが、従業員が負傷や病気、精神的な問題を抱え、労働災害が発生した場合は、損害賠償請求が発生する可能性があります。
 

 


問われる責任と判断基準

1:労働災害による問われる責任

 
もしも、みなさんの企業に「死亡災害等」が発生した場合には、どのような責任が発生するかを考えてみましょう。
 
・刑事責任
労働災害防止の義務を怠ると、法律によって刑事責任を問われることがあります。具体的には「業務上過失致死傷罪」と「労働安全衛生法違反」が該当します。業務上過失致死傷罪は、事故の原因に最も近い人から順に責任を問われます。労働安全衛生法違反は、企業のトップに、管理上の違反はなかったかという、上位者から順に責任を問われます。業務上過失致死傷罪の追及の構図とは逆になります。刑罰としては、懲役や罰金があります。
 
・民事責任
被災労働者やその家族は、事業者に対して損害賠償を求めることができます。労働災害補償保険法によって、被害者が補償を受けることができますが、労働者や家族の生活に影響が残る場合には、保険で賄われない範囲については事業者がその責任を負うことになります。
 
・行政責任
労働安全衛生法違反や危険な状況がある場合、行政機関から処分を受ける可能性があります。
 
・社会的責任
企業が責任を果たさないと、社会からの信用が低下し、企業イメージや売り上げに悪影響を与える可能性があります。また、労働災害の報道やSNSでの拡散により、企業の評判が悪化し、経営破綻に至るリスクもあります。
 

2:安全配慮義務違反の判断基準

 
安全配慮義務違反の判断基準について説明します。

・当然の義務を果たしているかどうか
法律や規則で定められた義務を企業が果たしているかどうかが重要です。具体的には、労働環境や健康管理に関する対策が適切に行われているかどうかが調べられます。もし対策が不十分だった場合、安全配慮義務違反とされます。
 
・労働者の傷病に安全配慮義務違反が関係しているか
労働者の病気や怪我の原因として、企業の安全対策が不十分だった場合、安全配慮義務違反となります。例えば、長時間労働によるうつ病や、安全対策が不十分で起きた事故による負傷などが考えられます。
 
・予見可能性があったかどうか
労働者が事故や健康被害が起こる可能性を予測できた場合、事前に対策を取ることが求められます。たとえば、高所での作業では転落や物の落下が予想されるため、安全帯やヘルメットの着用を義務付けなければなりません。もし、これらの対策が怠られた場合、安全配慮義務違反とされます。

つまり、企業は労働者の安全を確保するために、法律や規則に基づいた適切な対策を講じる義務があります。
 

 


安全配慮義務を果たすためにできること

労働者が安全で健康的に働けるようにするために、会社は職場の環境を整えたり、事故を防止するための対策を講じたり、従業員の心身の健康を守る取り組みをしなければなりません。しかし、具体的な対策はまだ定められていません。

安全配慮義務を果たすためには、産業医との連携も含めて、何をすべきかについての手順を示したマニュアルを作成するなどの取り組みが効果的です。企業ができる対策について考えてみましょう。
 

1:労働環境の整備

 
労働環境の整備は、労働者の業務負担を減らし、健康被害のリスクを排除することにつながります。具体的には、設備や機械の点検、安全装置の設置、作業場や事務室の清潔さの維持などが必要です。

 

2:労働時間の適正化

 
長時間労働は心身の健康に悪影響を与える可能性があります。長時間労働は心身の健康被害や離職率の増加につながり、最悪、過労死・自死など命に関わる事態に陥る可能性があります。
国では、相談窓口の設置や時間外労働の規制を行っています。企業は、長時間労働を減らす方針を示し、労働時間を正確に把握することが重要です。

 

3:健康診断

 
健康診断は生活習慣病の予防や早期治療に役立ちます。労働安全衛生法では、定期的な健康診断の実施が義務付けられています。企業は労働者に健康診断の重要性を説明し、受診できる環境を整える必要があります。

 

4:メンタルヘルス対策

 
メンタルヘルスの問題は生産性低下や離職率の上昇につながる可能性があります。最悪、重大な精神疾患や自死に発展する危険性もあります。労働安全衛生法・同規則には、常時50人以上の労働者を使用する事業所おいては、1年以内に1回ストレスチェックの実施を義務付けています。企業は適切な対策を講じる必要があります。

 

5:安全衛生教育

 
労働者が安全に作業するためには、安全に関する知識や技能を身につけることが重要です。新入社員や中途採用者には、作業手順や事故対処方法について丁寧に指導する必要があります。

 

6:ハラスメント対策

 
ハラスメントの問題は労働者のメンタルヘルスに影響を与える可能性があります。企業はハラスメント相談窓口の設置や適切な対応を行う必要があります。パワハラやセクハラが発生した場合は、被害労働者を全面的に保護することが求められます。放置すると損害賠償請求や休職・離職及び企業イメージの低下・生産性の低下・企業信頼の失墜など大きな問題を抱えることになります。
 
これらの取り組みを通じて、労働者の安全と健康を守ることが企業の重要な責任です。

 

まとめ

 
安全配慮義務を果たすことがなぜ重要か、ご理解いただけましたでしょうか。基本は「企業の大切な働く人たちを守ること」です。働く人たちの状況や社会の変化に合わせて、適切な対策を取ることで、安全配慮義務を果たし、働きやすい職場を作るお手伝いができればと思っています。

 

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