今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。
近年、ギャンブル依存症が社会的な問題として注目されています。その影響は個人だけでなく、企業にも及んでいます。最近では、大リーグの通訳者の違法賭博疑惑が明るみになるなど、ギャンブル依存症の深刻さが再認識されています。ギャンブル依存症は、従業員の精神的な健康や生産性を大きく損なうだけでなく、借金を返済するために業務上横領などの不正行為を犯すなど、企業の信頼性や経済的な安定性にも悪影響を及ぼします。
企業は、これらの問題に対して意識を高め、従業員のメンタルヘルスに配慮し、兆候を見逃さないようにすることが重要です。そうすることで、健全な職場環境を維持し、従業員を守ることができます。このコラムでは、ギャンブル依存症が個人と企業に与える影響について詳しく説明し、企業が取り組むべき予防策や対策について考えます。
※本内容は、西岡氏へのインタビューを基に再編集したものです。
LINEUP1:違法賭博の現状とリスク
1:違法賭博の定義と種類
違法賭博とは、政府の許可を受けずに行われる賭け事のことです。具体的な例としては、インターネットを通じたカジノゲームや裏カジノ、賭け麻雀、スポーツ賭博などがあります。表面的には魅力的なリターンが提供されるかもしれませんが、参加するだけでも法律違反となります。
2:違法賭博に伴う法的リスク
違法賭博に関わる法的リスクには、刑事責任や民事責任、社会的な信用の失墜があります。違法賭博に関与すると逮捕され、懲役や罰金が課せられる可能性があります。また、組織的な違法賭博に関わると、その刑事責任はより重くなります。違法賭博は、個人のみならず企業の社会的信頼にも影響を与えるため、従業員はこのような活動に関わらないように注意を払う必要があります。
日本の刑法において、賭博罪には「単純賭博罪」と「常習賭博罪」の2つの類型があり、それぞれの量刑については、以下のとおりです。
〇単純賭博罪:
賭博をした者は、50万円以下の罰金または科料に処されます。
ただし、一時の娯楽に供する物を除きます。例えば、ジュース1本を賭けて仲間内でじゃんけんをする行為は、厳密には「ジュース1本」を賭けていることになりますが「一時の娯楽に供する物」と判断されて賭博罪には問われません。
〇常習賭博罪:
常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処されます。
常習的に賭博行為をした場合は常習賭博罪に問われます。常習的に行っているという性質上、単純賭博罪よりも悪質性が高く、より重い罰則が設定されています。
特に以下のような悪質な賭博に対しては、比較的重い処罰が下る可能性があります。
・暴力団が関与したような組織的な賭博
・賭博の主犯格であるような場合
〇賭博開帳図利罪
また、賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処されます。
〇組織犯罪処罰法
組織犯罪に対する刑罰を加重するもので、5年以下の懲役が処されます。組織的にバカラ賭博を行い同法が適用された例もあります。
3:経済的な危険性
違法賭博は、短期間で大きな金額を失うリスクがあります。制限なく大きな賭けができるため、損失を取り戻そうとして借金を抱えてしまうケースが少なくありません。さらに、ギャンブル依存症へとつながり、個人の財政状況だけでなく心理的・精神的な健康にも深刻な影響を与える可能性があります。
違法ギャンブルに手を染めるきっかけはさまざまですが、一般的な要因として下記のものが挙げられます。
ア 周囲からの誘いと好奇心
違法ギャンブルに手を染める最も一般的なきっかけは、友人や知人からの誘いです。特に若者は、好奇心や興味本位から、友人と一緒にギャンブルを試してしまうことがあります。
イ 経済的な困難
経済的に行き詰まっている人々は、違法ギャンブルに手を出す可能性が高まります。しかし、経済的な問題がなくても、他の要因が影響を与えることもあります。
ウ 信頼できる友人や相談相手がいない
犯罪に手を染める人々は、何でも話せて止めてくれる友人や、捕まったら顔向けできない友人がいないことが原因となることがあります。
エ ストレスや孤独感
人々がストレスや孤独感を感じると、違法ギャンブルを利用して気分を紛らわせることがあります。
オ 依存症
一度違法ギャンブルに手を染めると、依存症に陥るリスクが高まります。負けを補填するため、リスクの高いFXや公営ギャンブルなどで、一攫千金を狙いますが、どんどん負けが加算され沼にはまっていきます。依存症は、違法ギャンブルを繰り返し行うことで、人々の生活を脅かす問題となるのです。
LINEUP2:ギャンブル依存症の影響
LINEUP1では違法賭博の現状とリスクについて見ていきました。LINEUP2では、ギャンブル依存症の影響を詳しくお伝えします。
ギャンブル依存症に陥ると、社会的・心理的・身体的健康に大きな影響をもたらしてしまいます。ギャンブル依存症の特徴や、もたらすリスクについて、家庭だけでなく企業全体としても正しく理解していきましょう。
1:ギャンブル依存症とは
ギャンブル依存症は、公営競技やパチンコ、その他のギャンブルにのめり込み、日常生活や社会生活に支障をきたす状態のことです。<ギャンブル等依存症対策基本法第2条>
疾病分類としてギャンブル依存症は「ギャンブル障害」という精神疾患にあたります。それには次のような特徴があります。
2:社会的影響
ギャンブル依存症に陥った人々のほとんどが、負けを取り戻すためにリスクの高い賭けをし、結果として多額の借金を抱えることになります。これが経済的困難や、ストレス、離婚、DV、育児放棄、児童虐待といった問題や犯罪につながることもめずらしくありません。さらには、会社の資金を横領したり、腹いせに放火したりする犯罪も多く報告されています。
2001年青森県で従業員9人が死傷した武富士弘前支店強盗殺人放火事件は、ギャンブルによる借金が直接の原因とされており、被告人は最終的に死刑に処されています。
限界を超えた金銭を集めるためには、嘘をつくか、犯罪を犯すか。「依存症・多重債務・犯罪」は1セットなのです。
3:心理的および身体的健康への影響
ギャンブル依存症は、不安やうつ病、自己嫌悪感などの心理的・精神的な健康問題を引き起こします。また、過度のギャンブルにより家族や友人関係が損なわれ、孤立化し、その結果、さらにギャンブルへの依存が強まる悪循環に陥ることもあります。孤立はうつ病や自殺のリスクを高める一方で、自暴自棄から予期せぬ犯罪に走る可能性も高めます。
LINEUP3:企業の対策と役割
LINEUP2ではギャンブル依存症の影響について見ていきました。LINEUP3では、企業の対策と役割についてお伝えします。
従業員全体への理解浸透と早期発見、適切な支援体制の強化を企業全体で行っていきましょう。
1:気づきと理解
従業員の変化に注意を払い「業務の質が低下した、欠勤が増えた、心がここにない、常にイライラしている、嘘をつく、誰かの金を無心した」などの問題兆候を見逃さないことが大切です。ギャンブル依存症は、強迫観念、継続的な賭け行動の増加、失敗にもかかわらずやめられないなどのギャンブル行動を、自分自身では制御できない心理的な問題です。解決には、時間と専門的な支援が必要であり、従業員全体に対する教育やセミナーを通じて、問題への理解を深めることが重要です。
2:適切な対応とサポートの提供
ギャンブル依存症の人は「もうギャンブルはしない」「気持ちを入れ替える」と言います。しかし、家族や同僚が借金を肩代わりしてしまうと、一見有効な支援に見えるかもしれませんが、実は問題を解決するのではなく、むしろ依存症の人が責任を逃れ、問題行動を促進する可能性があります。企業は従業員が相談できる窓口を設け、家族も含めた適切な支援体制を整えることが重要です。また、対象従業員を発見した場合は適切な医療機関、自助グループ、精神保健福祉センターなどへつなぐ体制を構築しておくことで、早期の職場復帰への道も開かれます。
3:職場での適応策
支援を提供した後も、対象従業員の状況を定期的にモニタリングし、声掛けを積極的に行い、必要に応じた追加の支援を行います。
従業員のプライバシーに配慮し、問題に対する非難や偏見を避け、信頼と尊厳を守りながら、継続的なサポートを提供しましょう。ギャンブル依存症に苦しむ従業員に対して、総合的なサポートを提供し企業全体で支援体制を強化することが大切です。
4:まとめ
違法賭博とギャンブル依存症は、従業員や企業に大きな影響を与える可能性があります。従業員に違法賭博のリスクとギャンブル依存症の危険性を理解させるために、教育や啓発活動を行い、必要なサポート体制を整えて従業員の安全と健康を守ることが重要です。
健全な職場環境の維持は、従業員の幸福だけでなく、企業の持続的な成長にも繋がります。企業がこの問題に真摯に取り組むことで、より強固な組織として成長することができるでしょう。
参照:https://www.ncasa-japan.jp/依存症対策全国センター