Column コラム

Vol.30【著名人の名を語る詐欺~SNS型投資詐欺の手口と防止策~ / カスタマーハラスメントに対する対策強化】

今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。


 
最近、FacebookやInstagramなどのSNSで、実業家の前田友作氏を語った「前田氏による無料投資教室」、経済アナリストの森永卓郎氏を語った「森永卓郎ゼミ」、実業家の堀江貴文氏を語り「1株1000円が10万円になる」、などといった投資勧誘の広告を目にする機会が増えました。しかし、これらは著名人の名前を使って高収益を約束する投資話を持ちかける詐欺手法の一つです。このようなSNS型投資詐欺の被害が急増し全国で拡大しています。
新NISAが始まり、多くの人々が投資に興味を持ち始めている今、広がる新たなSNS型投資詐欺について、その巧妙な手口や防止策を説明します。
※本内容は、西岡氏へのインタビューを基に再編集したものです。

LINEUP1:著名人を語るSNS型投資詐欺とは

1:SNS型投資詐欺の特徴

 
SNS型投資詐欺は、詐欺師がSNSで有名人になりすまし「プロが教える厳選10銘柄」などの高収益を約束する投資話を持ちかける手口です。詐欺師は有名な投資家や経済アナリスト、俳優などの偽アカウントを作成し、多くのフォロワーを集めて信頼性を高めようとします。
これらの投資話は内容が曖昧で「高利回り」や「リスクなし」といった魅力的な言葉を使ってターゲットを引き込みます。また、フェイクニュースや偽の成功事例、偽レビューを使って信憑性を装います。その結果、ターゲットは実際には存在しない投資案件にお金を入れ、多額の損失を被ることになります。
警察庁によると、2023年にはSNS型投資詐欺の認知件数は2271件、被害金額は約278億円に上りました。
 

2:SNS型投資詐欺の手口

 
(1) 偽アカウントの作成と信頼性の構築
詐欺師は、有名な投資家や経済アナリストの名前と写真を使って偽アカウントを作成します。これらのアカウントは公式アカウントのように見せかけるために、認証バッジを偽装するなど巧妙に作られています。投資に関する専門的な投稿や記事をシェアし、著名人が過去に成功した投資事例やアドバイスを引用することで、その知識と経験を強調します。また、フォロワーの質問に答えることで信頼感を高めます。
 
(2) 高収益を謳う投資話フェイクニュースと偽の成功事例による勧誘
十分な信頼を築いた後、詐欺師は高収益を保証する投資案件を提案します。例えば「1ヶ月で資産が2倍」「リスクゼロで確実に儲かる」といった魅力的なフレーズでターゲットを引き込み、フェイクニュースサイトや偽のレビューを利用して、投資案件の信頼性を強調します。架空の成功事例や偽の顧客レビューをSNS上で拡散し、多くの人が実際に成功しているかのように見せかけます。これにより、ターゲットは投資話を信じ込み、安心して資金を投入します。
 
(3) 資金の詐取と追加要求
詐欺師は、ターゲットに対して偽の取引記録などを見せて投資の利益が出たと偽りの報告を行います。ターゲットが自分の投資が成功し、実際に利益が出たと信じ込むように仕向け、場合によっては最初の1度だけ出金させ、ターゲットを安心させます。しかしその後、ターゲットがさらに売却を依頼すると「出金手数料」や「税金」などの名目で追加の支払いを要求されます。この手数料は高額であることから支払いを断念させ、被害の発覚を遅らせます。
被害者が手数料を支払ったとしても、詐欺師は「システムのエラー」「銀行の手続きの遅延」「追加の税金」など様々な理由をつけて、追加の手続きや支払いを要求します。
他にも、学生などを狙った投資詐欺では、口コミ効果を利用し、友人を紹介すれば報酬がもらえるといった形で働きかけられ、被害が拡大することもあります。
このような手法により、被害は拡大し、さらに多くの資金を騙し取られることになるのです。
 
(4) 具体的な手口の一例
例えば、メタ(Facebook)やInstagramで有名な投資家や経済アナリストの写真付きの投資広告を見て興味を持った被害者が、その広告をクリックすると、LINEの友達追加ページに誘導されます。その指示に従って進むと、詐欺グループのチャットに登録され、有名経済アナリストM氏を名乗る男性とのやり取りが始まります。
この男性は国際情勢や日本企業の株価動向を共有し、親切丁寧な対応で被害者との信頼関係を構築してきますが、その後、専用の投資アプリをダウンロードするよう指示されます。このアプリを通じて被害者は多額の資金を失い、最後に「god bless you(神のご加護がありますように)」と英語で別れの挨拶が届きます。

 



LINEUP2:プラットフォームの対応の現状と防止対策
LINEUP1ではSNS型投資詐欺の特徴と手口について見ていきました。LINEUP2では、プラットフォームの対応と現状及び具体的な防止対策について詳しくお伝えしていきます。
経済アナリストのM氏は、自分の名前を騙られて大きな被害を受けた人がいるとして、広告を掲載しているプラットフォームに抗議しました。しかし、広告は依然として消えず、広告の審査が甘すぎるのではないかと批判しています。
プラットフォーム事業者は、早期に偽広告を排除する対策を取ることができないのでしょうか。
 

1:プラットフォーム事業社の取組み

 
プラットフォーム事業者のメタ社は「詐欺広告の削除対応が遅い」という批判に対し、詐欺広告の発見と削除のための報告機能を強化し、人工知能AIを活用した偽アカウント検出システムを導入するなど、詐欺広告の削除を迅速に行うための取組みを強化していると述べています。
しかし、オーストラリア競争消費者員会(ACCC)は、メタ社がこれらの広告を表示し続けたことが、消費者に重大な被害をもたらし、十分な対応を取らなかったと指摘しています。
 

2:減らない現状

 
(1) 詐欺師の巧妙な手口
詐欺師たちは技術的な対策にも対応して進化を続けており、AIによる検出システムを回避するために、広告の内容や手法を頻繁に変えるなど、非常に巧妙な手口を使っています。また、短期間で大量の偽アカウントや詐欺広告を作成し、削除される前に多くの被害者にアプローチすることが可能であり、プラットフォーム事業者とのいたちごっこが続いています。
 
(2) 広告収益モデルの依存
プラットフォームは広告収益に大きく依存しており、広告主からの収入が主な収益源となっています。そのため、広告主の審査が厳格でなかったり、広告の削除が迅速に行われなかったりすることがあります。
 
(3) 利用者の認識不足
多くのユーザーは、SNS上の広告やアカウントがすべて信頼できるものだと誤解しがちです。特に、有名人や著名な投資家が関与しているように見える広告は、信頼性が高いと感じてしまい、警戒心を持たずに引き込まれることが多いです。
 
(4) 技術的な制約
AIなどのシステムも完全ではなく、正しい広告を誤って削除する「偽陽性」や、詐欺広告を見逃す「偽陰性」の問題が残ります。技術的な制約があるため、すべての詐欺広告を完全に検出・削除することは非常に困難です。
 
(5) 法規制の限界と法改正
欺師は法的措置を逃れるために、異なる国や法域で活動することが多く、これが規制当局による追跡や取り締まりを困難にしています。
諸外国では法規制が強化されており、デジタルサービス法やオンライン安全法などが制定されています。一方、日本では表現の自由との兼ね合いから、対応が遅れていました。しかし、本年5月に改正プロバイダ責任制限法が参院本会議で可決成立し「情報流通プラットフォーム対処法」に改められ、大きく内容も改正されました。
この法律改正により、プラットフォーム事業者には次のような義務が定められました。

これにより、プラットフォーム上の詐欺広告に対する対策が強化されることが期待されています。
 

3:防止対策

 
(1)信頼性の確認
・アカウントの確認: SNSで著名人や投資家のアカウントを見る際は、公式マーク(認証バッジ)が付いているか確認しましょう。また、投稿内容やフォロワー数、過去の活動履歴をチェックして信頼性を確認しましょう。
・外部情報との照合: SNS上で見た投資情報やアドバイスが本物かどうかを確認するために、公式サイトや信頼できるニュースソースで情報照合を行いましょう。特に、著名人が特定の投資を推奨している場合、その発言が公式に確認できるかを調べることが重要です。
・偽サイトの確認:ショッピングサイト等を利用する際は、決裁手続前に必ず以下のことを確認しましょう。
 
《消費者庁からの消費者被害防止に向けた注意喚起》

 
(2)不審なメッセージや広告に対する警戒
・高収益を謳う広告への注意: 「短期間で資産が倍になる」「リスクゼロで高収益」といった魅力的なフレーズを使った広告は詐欺である可能性が高いため、クリックしないようにしましょう。
・不審なリンクの回避: SNSやメールで届く不審なリンクをクリックしないように注意してください。特に、知らない人からのメッセージや広告に含まれるリンクは、詐欺サイトへ誘導される危険性があります。
 
(3)個人情報の保護
・個人情報の提供を避ける: 不審なアカウントやサイトに対して、個人情報や金融情報を提供しないようにしましょう。信頼できるプラットフォームでない限り、個人情報を入力するのは避けてください。
・二要素認証の導入: SNSアカウントに二要素認証(2FA)を設定することで、アカウントのセキュリティを強化し、不正アクセスを防ぐことができます。これにより、個人情報やプライベートな写真の漏洩や悪用の危険を防ぎます。
 
(4)詐欺の報告と対応
・詐欺アカウントの報告: 不審なアカウントや詐欺広告を見つけた場合は、SNSプラットフォームの報告機能を利用して報告してください。しかし、プラットフォームが大きすぎるあまり、対応が遅れるというケースも残念ながらあります。それでも報告することは他のユーザーが同様の被害に遭うのを防ぐ一助になりますので、報告機能は積極的に利用しましょう。
・被害に遭った場合の対応: 万が一詐欺に遭った場合は、すぐに銀行や金融機関に連絡し、不正取引を報告しましょう。また消費者センターに被害を報告するとともに、警察に早急に被害申告しましょう。
 
(5)継続的な学習と情報収集
・詐欺の手法は常に進化しています。従業員やユーザー自身が警戒心を持ち、正しい情報に基づいて行動することが最も重要ですが、個人が情報を集めるだけでは限界があります。そのため、企業では定期的に勉強会を開催し、最新の詐欺手法について学び、詐欺防止の知識を深めることが大切です。企業としても、詐欺被害の動向に注意を払い、常に最新の情報を把握しておくことが非常に重要です。
 
別表
1 注意事項

 
2 我が身を守るために

 

4:まとめ

 
SNS型の投資詐欺は非常に巧妙であり、企業や個人が被害に遭うリスクが高まっています。プラットフォーム事業者はAIなどの技術を活用して詐欺広告を検出・削除していますが、犯罪集団側とのいたちごっこが続いている状況です。
個々のユーザーは常に警戒心を持つべきであり、SNS上で見かける投資話に対しては特に注意が必要です。個人情報や金融情報を安易に提供しないようにしましょう。また、企業では定期的に勉強会などを通じて従業員に投資詐欺に対する警戒心と知識を教えることが重要です。
企業は従業員や自社をSNS型投資詐欺から守るため、予防策と対策を徹底し、安全なビジネス環境を維持する努力を続けるべきです。詐欺被害のリスクを最小限に抑えるためにも、対策を強化していきましょう。

 



LINEUP3:カスタマーハラスメントに対する対策強化
LINEUP1と2ではSNS型投資詐欺の手口と防止策について見ていきました。
次にLINEUP3ではカスタマーハラスメントに対する対策強化についてお伝えしていきます。
カスタマーハラスメントについて、権利の乱用や逸脱したり行き過ぎた行為への対応の強化として、5月13日自民党のプロジェクトチームは、従業員の保護を企業に義務づける法改正など、対策強化を政府に求める提言を行いました。
 

1:カスタマーハラスメント強化の必要性

 
カスタマーハラスメントは、労働施策総合推進法がパワーハラスメントを、男女雇用機会均等法がセクシャルハラスメントやマタニティハラスメントを規制している一方で、法的に明確な規制がない行為です。しかし、これによって労働者が不安やストレスを感じ、深刻な状況に至ることがあります。そのため、企業は単に現場に任せるのではなく、労働者からの相談を受け付け、適切に対応する体制整備が求められています。
 

2:提言案のポイント

 
(1) カスタマーハラスメントの定義
カスハラの範囲を明確にするために、その定義を明確化します。これにより、正当なクレームとの線引きがしやすくなります。
 
(2) 相談体制の整備
労働環境を損なわないように、相談体制を整備することを事業主に義務付ける法整備が必要です。これにより、労働者が安心して相談できる環境が整います。
 
(3) 従業員に対する各種研修の強化
カスタマーハラスメントの予防のために、顧客対応の従業員研修を強化します。また、消費者の権利と責任についても正しく理解するための教育を強化します。
 

3:カスタマーハラスメント強化に向けて

 
対策の強化に向け法整備は徐々に進んでおり、例えば、旅館業法改正によりホテルはカスハラを受けた客の宿泊を拒否できるようになりました。また、国土交通省はタクシーやバス運転手に対する氏名掲示義務を廃止しました。
企業も対策を強化しており、JR東日本は4月に「カスハラには対応しない」との方針を公表しました。また、日本交通などのタクシー業界もカスハラを受けた客に乗車を拒否することや慰謝料の請求を示唆しています。
 

4:まとめ

 
企業がカスタマーハラスメントを防止するためには、従業員を守る労働者保護対策が重要です。
従業員が会社に守られているという安心感とともに毅然とカスハラに対応するには、企業内の相談体制、法整備の強化が不可欠です。
現在、法改正の提言が行われている中で、各企業もカスタマーハラスメントに対する総合的な取り組みを進めることが求められています。これにより、企業の信頼性とブランド価値を守ると同時に、社会全体でハラスメントの撲滅に向けた取り組みを促進できます。企業が積極的にカスタマーハラスメントに対抗し、従業員を守るための取り組みを行うことで、より健全な労働環境を実現していきましょう。
 

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