Column コラム

Vol.34【通報者を守る!企業が知っておくべき公益通報者保護制度のポイント】

今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。


 
LINEUP1:公益通報者保護制度とは

公益通報者保護制度は、企業や組織内での不正行為や違法行為を内部告発するための制度です。この制度は、内部告発者(通報者)が報復を恐れずに不正行為を報告できるようにすることを目的としており、企業や組織の透明性を高め、不正行為を防ぐ上で極めて重要です。
しかし、公益通報者保護制度にはいくつかの課題もあります。例えば、通報内容の信頼性を確保するための仕組みや、通報者が精神的なストレスを感じずに通報できる環境の整備が出来ていない組織が多い点などです。
最近では、兵庫県知事が公益通報者保護制度に違反したとして連日報道を目にしました。この事案では、元局長が知事のパワハラや不正行為を内部告発しましたが、県はこの告発を公益通報として扱わず、誹謗中傷されたものとして告発者を懲戒処分としました。この対応は、公益通報者保護法に違反する可能性があるとされ、制度上もっとも肝要である公益通報者保護の重要性とその課題が改めて浮き彫りになりました。
2023年6月号メールマガジンにおいて「影響力が大きい公益通報者保護法改正」というテーマでお届けしましたが、今月は通報者を守るという観点で公益通報者保護制度について深堀りいたします。
※本内容は、西岡氏へのインタビューを基に再編集したものです。
 

1:法的根拠

 
公益通報者保護法(2006年施行・2022年6月1日改正)
 

2:公益通報者保護制度の定義と目的

 
公益通報者保護制度は、従業員や取引先などの内部関係者が、企業や公的機関における不正行為や法令違反を通報する際に、その通報者を保護する制度です。この制度の目的は、不正行為が組織内部で隠蔽されず、早期に是正されることを目指すものです。具体的には、通報者が法令違反や企業の利益を損なうような重大な不正行為を報告し、その結果として報復や不利益な取り扱いを受けることがないように保護される仕組みが整備されています。
公益通報者は、通報を行うことで法令遵守や企業倫理の向上に寄与し、企業全体の健全な運営を支える重要な役割を果たします。また、企業側も通報を受けることで、問題を早期に発見し、適切に対処する機会を得られるため、リスク管理の一環として重要視されています。
 
消費者庁公益通報者保護法の概要https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/consumer_partnerships_230725_01.pdf
 

3:公益通報者保護制度の重要性

 
(1)不正行為の抑止
公益通報制度は、従業員が不正行為を発見した際に、安全に通報できる環境が整っていることで、法令順守意識等が高まり、結果として不正行為の発生が減少します。また通報が行われることで、問題を早期に発見し、対処することが可能となり、組織全体の健全性が保たれます。
 
(2)透明性の向上
通報制度の整備により、組織が不正行為に対して厳正に対処する姿勢を示すことで、従業員や関係者に信頼感を与えます。これにより、組織の透明性や外部からの評価も高まり、長期的な成長と持続可能性が促進されます。
 
(3)従業員の保護
通報者が報復を恐れずに不正行為を報告できる環境を提供することで、従業員の安心感が高まり、組織内での不正行為を見逃されることなく適切に報告されます。通報者の保護は、組織の倫理的な文化を醸成する上で欠かせない要素です。
 
(4)法的順守の確保
企業や組織が法令を順守することは、社会的責任を果たす上で不可欠です。通報制度を導入することで、法令違反の早期発見と是正が可能となり、法的リスクを軽減することができます。法的順守を徹底することで、企業の社会的信用が向上し、持続可能な経営が実現します。
 

 


LINEUP2:公益通報者の保護と通報の要件

LINEUP1では、公益通報者保護制度の概要と重要性について説明しました。LINEUP2では、通報者の保護について詳しく解説していきます。
 
通報者が報復を恐れずに不正行為を報告できるよう、法的な保護が設けられています。具体的には、通報によって解雇や降格、嫌がらせなどの不利益な取り扱いを受けないことが保証され、企業側には通報者の身分や待遇を守る義務が課せられます。
ただし、保護が受けるためには通報内容が適切でなければなりません。通報は、違法行為や社会的に重大な不正行為に関連していなければならず、単なる個人的な不満や職場環境に対する不平は公益通報の対象外とされます。また、通報が故意に虚偽であった場合は、通報者自身が責任を問われる可能性もあります。そのため、通報者には正確で誠実な情報提供が求められます。
 

1:公益通報者の保護

 
(1)匿名性の確保
ア 匿名通報システムの導入
通報者が自分の身元を明かさずに通報できるよう、匿名のホットラインやオンライン通報フォームなどを導入します。
 
イ 情報の厳重管理
通報内容や通報者の情報が外部に漏れないように、厳重な情報管理体制を整えます。
 
(2)報復の禁止
ア 解雇や降格の禁止
通報を理由に、通報者を解雇や降格させることを禁止します。
 
イ 職場での嫌がらせの防止
通報者が職場で嫌がらせや差別を受けないよう、適切な対策を講じます。
 
ウ 法的措置
報復行為が発生した場合、通報者が法的に救済を求めることができる仕組みを整えます。
 
(3)法的保護
ア 通報者保護法の制定
通報者を保護するための法律を制定し、通報者の権利を明確にします。
 
イ 法的支援の提供
通報者が必要とする場合には、弁護士の紹介や法的アドバイスの提供など、法的支援を受けられるようにします。
 
(4)心理的サポート
ア カウンセリングの提供
通報者が心理的なサポートを受けられるように、専門のカウンセラーを紹介します。
 
イ サポートグループの設置
同じような経験を持つ人々と交流できるサポートグループを設置し、通報者が孤立しないようにします。
 

2:公益通報者の要件

 
(1)通報の対象となる行為
公益通報者保護制度の適用範囲は、法令違反や企業の規範に反する重大な不正行為に限定されます。具体的には、労働基準法や個人情報保護法などの法令違反、消費者や取引先に対する不正行為、環境汚染や重大な事故の隠蔽などが通報対象となります。具体的には、以下のような行為が対象となります。
 

 

3:通報者の対象

 
公益通報者は、企業や組織の内部にいる人物である必要があります。具体的には、以下のような立場の人々が該当します。
 

 

4:通報の方法

 
通報先は大きく分けて「内部通報先」と「外部通報先」に分類され、それぞれ異なる役割と利点があります。
 
(1)内部通報先
企業内部で設けられた通報窓口で、通常コンプライアンス部門や人事部門、内部監査部門が担当します。従業員は手軽に通報でき、企業は不正行為を迅速に把握し、早期に問題を解決できます。また、企業内部で早期に問題を解決できるため、外部に問題が拡散するリスクを抑え、企業の信用維持にもつながります。ただし、内部通報に対する対応が不十分な場合、通報者が不安を感じることがあるため、制度の信頼性を高めるためには体制の整備と周知などを慎重に行う事が求められます。
 
(2)外部通報先
外部通報先は、通報者が企業内部では解決が難しいと判断した場合に、不正行為を報告できる第三者機関です。これには、行政機関(消費者庁、労働基準監督署など)、報道機関、弁護士、NPO法人などが含まれます。外部通報先は、企業内部で不正が隠蔽される懸念がある場合や、内部通報が機能していない場合に、独立した視点での調査や対応が期待できます。また、通報者の匿名性がより強く保護される場合も多く、通報後の報復リスクを軽減する役割も果たしています。外部通報は、企業内の問題が深刻化した場合や、社会的に重大な影響を及ぼす不正行為に対して効果的です。
 
(3)匿名通報とホットライン
匿名通報は、通報者の身元を保護するために重要な手段です。多くの企業では、匿名で通報できるホットラインやウェブポータルを設置し、安全に通報できる環境を整えています。これにより、通報者は報復を恐れずに不正行為を報告することが可能になります。また、外部の第三者機関が運営するホットラインや、法律事務所が管理する通報窓口も増えており、これらの外部機関を通じて匿名通報が行われるケースが増加しています。匿名性を確保することで、通報がしやすくなり、制度全体の信頼性も向上します。
 

5:通報の内容

 
公益通報は、企業や組織の法令違反や不正行為に関する具体的な情報を含むものであり、通報者が報告する内容には公益性を持つことが求められます。通報の対象となるのは、主に社会的な影響を及ぼす可能性のある重大な違法行為や倫理的に問題のある行為です。以下に、具体的な通報の内容について説明します。
 
(1)法令違反に関する通報
公益通報の中でも最も典型的なものが、法令違反に関する通報です。これは、企業や組織が労働基準法、消費者保護法、環境法規、個人情報保護法など、さまざまな法律に違反する行為を行っている場合に、その違法行為を通報します。例えば、従業員の過剰労働、未払い賃金、労働条件の不適切な変更などの労働法規違反や、環境基準を超える排出物の放出、不正な製品表示などが該当します。これらの通報は、企業の法的なリスクを回避し、社会的信用を保つためにも重要です。
 
(2)組織内の不正行為
組織内で行われる不正行為も通報の重要な対象となります。不正行為には、経済的な不正(架空の経費計上、横領、贈収賄、背任)、コンプライアンス違反、社内規定に反する行為などが含まれます。これらの行為は企業の健全な運営を損ない、放置すれば組織全体の信用失墜につながるため、早期に通報されることが求められます。特に、上層部の関与が疑われる不正行為の場合、通報者が保護されなければ内部で隠蔽されるリスクが高いため、通報制度の整備が重要です。
 
(3)公共の利益に反する行為
公益通報は、組織が公共の利益を損なう行為に関する情報を含むことがあります。例えば環境破壊、消費者への不利益、不正取引など、社会的に重大な影響を与える可能性がある行為が該当します。環境法に違反した排出物の管理不備や、消費者に有害な製品を故意に販売する行為は、公共の利益に反するものであり、通報の対象となります。これらの行為は、企業の利益を優先するあまり、社会的責任を無視する事例であり、通報によって是正されるべき重要な問題です。
 
(4)「不正の疑いがある」段階での相談への対応
公益通報者保護制度では、「不正の疑いがある」という段階での相談に対して、通報者が安心して通報できる環境を整えることが重要です。事業者は、通報内容に基づき、迅速かつ公正な調査を行い、証拠の収集を徹底します。調査の過程で通報者が不利益を被らないように配慮し、証拠が見つからなかった場合でも、通報者の保護を継続し、調査結果を通報者に適切にフィードバックします。たとえ通報の内容が疑いの域を出なかった、もしくは誤解であったという場合であっても、通報者が適切な手続きを踏んでいる限り保護の対象となります。
兵庫県知事の事案のように、通報者が不利益を受けるケースがあるため、通報者の匿名性を確保し、通報内容に基づく調査を公正に行うことが求められます。このように、公益通報者保護制度においては、通報者が安心して通報できる環境を整え、通報内容に基づく適切な対応を行うことが重要です。
 

 


LINEUP3:公益通報制度導入によるメリットと事業者の体制整備

LINEUP1とLINEUP2では公益通報者保護制度の内容と通報者の保護と対応について解説しました。LINEUP3では、公益通報者保護制度を導入するメリットと、企業としてどのような体制を整備していくべきか具体的に掘り下げて説明します。
 

1:公益通報者保護制度の導入によるメリット

 
(1)不正の早期発見とリスク回避
内部通報により、企業は不正行為や法令違反を早期に発見でき、法的リスクや社会的信用の低下を未然に防ぐことができます。これにより、問題の深刻化を防ぎ、迅速な対応が可能となります。
 
(2)コンプライアンス強化とガバナンスの向上
公益通報者保護制度を導入することで、企業のコンプライアンス意識が高まり、組織全体のガバナンスが強化されます。これにより、従業員に対しても倫理的な行動が促され、健全な企業文化の形成につながります。
 
(3)従業員の信頼性向上と組織の透明性
従業員が安心して不正を通報できる環境を整えることで、内部の信頼性が向上し、組織全体の透明性も高まります。この結果、従業員のエンゲージメントが向上し、企業の健全な発展を支える要因となります。
 

2:事業者の体制整備義務

 
(1)公益通報者保護制度における事業者の体制整備義務
2022年に改正された公益通報者保護法により、従業員が301人以上の事業者には、公益通報制度の適切な運用を確保するために、以下の体制整備が義務付けられています。(300人以下の中小企業については、体制整備が「努力義務」となります。)
 
ア 通報窓口の設置
内部通報を受け付ける窓口を設置し、従業員が安心して通報できる体制を構築します。
 
イ 「従業者」の指定
内部調査等を行う担当者として「従業者」を指定し、通報内容に適切に対応できる体制を整えます。
 
ウ 内部規定の策定
内部通報に対応するための手続きや規則を明文化した内部規定を策定し、従業員に周知します。
 
(2)体制整備義務違反に対する行政措置
体制整備義務を怠った事業者に対しては、以下のとおり行政機関からの措置が取られる場合があります。
 
ア 助言・指導・勧告
違反が確認された場合、行政機関から事業者に対して助言や指導が行われます。
 
イ 公表
勧告に従わない事業者については、その違反事実が公表される可能性があります。
 
(3)通報者の情報守秘義務
通報内容を調査する従業者には、通報者を特定できる情報の守秘義務が課せられ、この義務を違反した場合、従業者には最大30万円以下の罰金が科される可能性があります。
 
消費者庁「従事者の指定が事業者の義務に!」https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_230320_0001.pdf
 

3:まとめ

 
公益通報者保護制度は、企業や組織の透明性を高め、不正行為を抑止するための重要な制度です。通報者の保護を徹底し、制度の信頼性を確保することで、社会全体の利益を守ることができます。兵庫県知事の事案は、公益通報者保護の重要性とその課題を改めて浮き彫りにしました。今後も、通報者が安心して不正を報告できる環境を整えることが求められます。
公益通報者保護制度がその制定の意図を達成するためには、通報者の保護が不可欠です。匿名性の確保、報復禁止、法的保護、心理的サポートなど、さまざまな保護措置を講じることで、通報者が安心して不正を報告できる環境を整えることが重要です。また、兵庫県知事の事案のように、制度の運用に問題がある場合には、迅速かつ適切な対応が求められます。これにより、公益通報者保護制度が真に機能し、社会全体の利益を守ることができるでしょう。
 

お気軽にご相談・お問い合わせください